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赤らんだ顔を俯け、旭は苦笑う。冷泉を知れば知る程、其の格の違いを見せ付けられると。此の婚姻に納得いかぬ、くじに失敗したとなったのは冷泉であろう。そんな事も。
冷泉は、旭の賛辞へ軽く頭を下げてからの。
「私の夫足る御方を下げる御言葉は、慎んで頂きたい」
鋭い眼差しで、強く出た声であった。旭自身が己を卑下した事が、東宮妃様の逆鱗に触れた様子。一瞬で旭の表情と気は引き締まり、身をも正す。
「もっ、申し訳、ありませぬ……!」
些か妙な思いを抱く旭の謝罪へ、冷泉はひとつ息を吐いた。
「皇子。全てを平均迄仕上げる事は、器用であると言う才に御座います。故か、極みの道を見出だしにくいのやも知れませぬ。逆に、私は不器用故ひとつの道を歩むも時を要しますので、つい深みへも……其の違いだけかと」
そう語ってくれた、冷泉の真っ直ぐな眼差し。旭は、其の言葉が胸の奥へと染み渡る感覚に声を忘れてしまう。容姿も能力も地味、平凡、平均。妹や親族の姫や貴公子は、其々華やかに己を魅せる力を持っている。そんな中で己は、何時も埋もれて賛辞を送る側で。
ぼんやりしてしまった旭へ、冷泉が案じる様に眉を寄せた。
「皇子……?」
我に返った旭は、照れながらも笑う。嬉しさに、ほんの少し瞳が潤むのを堪えて。
「あ、いや……私は、そんな風に言われるのは初めてで……身内が揃う中でも目立つ事無く埋もれており、主張が無いと言われ……」
笑い話にしようと、自虐の挿話。けれど、冷泉の表情は変わらず。
「私も、そう主張等しませぬよ」
何時もの如く静かにそう言うが、旭にしてみると。
「えっ、そうですか……?」
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