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突っ込み処だと語る、旭の素直な表情。文武両道、こんなにも華やかで目を引く男子だろうにと、謙遜も過ぎると嫌みでは。が、再び鋭くなった東宮妃様の瞳に息を飲み、理解と肯定を示したと言う。
そろそろと、旭を見送る為冷泉も共に。軽く交わす会話にも、少しずつ縮まった距離が見える様でもあった。僅かに旭の後方へ下がり足を進めていた冷泉だが、ふと其の前へ進み出て旭の歩みを止める。
「あの、冷泉殿……?」
旭を守る様に前へ出た冷泉は、旭へ背を見せたままに。
「此方で御待ちを」
潜めた声であった。旭は、突然何がどうしたのかと固唾を飲みつつ声無く頷いた。
冷泉のみ、後宮の長い廊下を僅かに早足で進む。そして、廊下が別れる角にて。
「何をしておる」
怒鳴るでは決して無い。しかし、強く厳格な声が通る。
「ひっ……!」
今正に、背を向け駆け出そうとしていた侍女が身の全てを硬直させ立ち止まった。震えながらも、徐に振り返った年若い侍女は最早涙目。影を落とすのは、凍り付く様な眼差しで見下ろす冷泉のもの。
「あ、あ……と、東宮妃、さ、ま……」
侍女は怯え、拝処か言葉もままならぬ様子だ。冷泉は、そんな侍女の言い訳を待ってやっていたが。
「冷泉殿っ、一体……」
此処で、案じた旭も側へと駆け寄って来たのだ。依然、震え縮こまる侍女の姿へ気が付き、旭も冷泉の隣へ並ぶ。
待って見ても言葉が無いと、徐に開く冷泉の口。
「そなた、何のつもりか。先日も、皇子の周辺へ居ったろう」
「あ、あの……わ、私……あの……」
口を開くも、震えで声が言葉とならない侍女。再び声を待ってやる冷泉だが、やはり侍女は声が出せぬ様子。
「不必要に皇子の周辺を嗅ぎ回る等、無作法極まり無い……無礼ですぞ。お分かりか」
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