後宮の花。

14/22
前へ
/187ページ
次へ
 続いた冷泉の言葉は、怒鳴るでも無く静かではあるのだが、どうにも高圧的に聞こえてしまう。加え此の表情と。  侍女は此れに、漸く動かせた体で拝をした。手を付け、深く。 「も、申し訳……っ」  とは言え、侍女はまだ平静ではない。侍女の現在の心情に共感出来る旭。最早気の毒になり、侍女を庇う様に冷泉の前へと旭が進み出た。 「冷泉殿。お待ち下され、私が取り調べ致しましょう」 「しかし……」  旭の申し出だが、冷泉は二言目を口に仕掛ける。此れは後宮での事。東宮妃足る冷泉にも、責任がある事だからだ。其れを汲んだ上で、旭が頷いた。 「冷泉殿の御意見は、至極全うで正しい……なれど、先ずは落ち着いて話せるのを待ってやらねば。刀を向けられた訳では無いのですから」  固い表情ながら、場を穏やかにと笑顔を作る旭。旭も、此れ迄の冷泉との交流で少し分かった事がある。時折高圧的に見える事もあるが、納得出来ぬ事へは確かな答えをと、つい生真面目さが出るのだろう。恐らく、真っ直ぐであるからこそ。  冷泉は、暫し震える侍女の頭を見つめていたが、徐に旭へ頭を下げた。 「では、お任せ致します」  静かに一言そう言うと、背を向けてしまう。旭は少々慌てて、冷泉の背へ。 「れ、冷泉殿、御待ち下されっ」  顔だけで軽く振り返った冷泉。旭は、呼び止めた事に、少し照れが出てしまう。しかし、告げておきたい言葉をと。 「あの……ご心配頂いた事、感謝しておりますぞ」  素直な感謝と、嬉しさだったから。冷泉は、一瞬目を見張るも直ぐに身を正し一礼。言葉は無く、早々に後宮の奥へと戻って行ってしまった。
/187ページ

最初のコメントを投稿しよう!

103人が本棚に入れています
本棚に追加