後宮の花。

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 冷泉を見送った旭は、拝をしたまま震える侍女の前へ片膝を折る。 「さ、落ち着くと良い。私が取り調べよう……きちんと、正直に話してくれ」  気遣いつつ、静かにそう促してやった。顔を上げるも声は出ない侍女であったが、極度の緊張状態から力が抜けた様子。己と年近いか、下か。其のまだあどけなくも見える瞳から、改めて又涙を溢したのだった。状況に馴れぬ旭が狼狽える一面はあったが、取り敢えず事情をと。皐月による身体検査を経て、表に白刃が控える旭の執務室で取り調べとなった。幾分か冷静になれたのか、侍女は取り調べに素直に応じ、年と勤続年、己を薺(ナズナ)と名乗った。そして其の後で、再び身を改めて旭へと拝を。 「――真に、申し訳御座いませんでした……!」  はっきりと出た其の言葉へ、旭は苦笑いを浮かべつつも頷いてやった。 「もう硬くならずとも良い。武器を持って潜んでいたのではないのだしな……では、薺。本題だ、何故あの様な処で?」  穏やかに問うてみた旭。薺は、一瞬声を躊躇う様に顔が俯いてしまった。しかし、意を決したのか。 「じ、実は私っ……あ、『あづき姫の恋日記』を、愛読しておりまして……っ」  出た声はぎこちなく、顔は恥じらいか真っ赤だ。が、旭は少々嬉しくて表情が緩んだ。中々百合や従姉妹以外と『あづき姫』を語る機会が無い事もありと。 「おお、そなたもか。同士とは喜ばしいのだが……となると、『和泉の君』から冷泉殿を……?」  言葉の後半は、少々寂しげなものに。では、己を見ていたのでは無く冷泉かと勝手に脳内で理解してゆく。  しかし。
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