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「ちっ、違うのです!……其の、あの、私は、皇子様と東宮妃様へお幸せになって欲しくてっ……あのっ、皇子様は、『あづき姫』の序盤より登場している『暁(アカツキ)』様を御存知ですか……?」
真っ赤な顔の薺から出たのは、全く予期せぬ返答であった。戸惑いつつも、旭は記憶を辿る。最近『和泉の君編』をも読んだので、知る登場人物だ。
「暁、暁……ああ。えぇっと、確か稀に登場する和泉の君の、幼馴染みだったか……?」
思い出せた。確かに出てきたと。薺は、目を輝かせ笑顔を浮かべた。そして、僅かに身を前のめりに。
「はいっ。私実は、其の『暁』様を推しておりまして……!」
強く輝く瞳でそう言うのだが、旭は此れにやはり戸惑いしかない。何故なら。
「え、そうなのか?いや、しかし……出番も少なく、印象も薄いが……」
そうなのだ。確かに登場人物としては記憶しているが、特に目立つ活躍も無い上、其の人物像も極平凡な貴公子である。瑠璃から贈られた登場人物紹介書にも、いたのかいなかったのかという程度だ。己の周囲でも、暁の支持等当然聞かない。そんな地味な登場人物が推しとは、ある意味玄人の楽しみ方なのかとも旭が頭の隅で思っていると。
「いいえっ。和泉の君様は、当初より暁様にだけはとても素直に御自身を晒しておられます。何と言いますか、私……此処に、其の、限りなく愛に近い、友情を見出だしてしまい……!」
強く、熱く語る薺。其の表情は、何処か恍惚としている程である。己でも此処迄の熱量で語れるだろうか、突っ込むのも憚れると。
「そ、そうか……で、其れと今回の件は一体……?」
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