コヒワタルカモ。

後宮の花。

　若干圧され気味にも、今回の動きへの聞き取りへ話を戻した旭。すると、薺は再び顔を恥じらう赤へと染める。そして。

「お、恐れながら……実は私、常々皇子様へ『暁』様を見ておりまして……っ」

　目を丸くさせ、旭は一瞬声を忘れた程。

「あ、暁……私が？」

　僅かに前へのめった旭の身、薺は明るい笑顔で頷く。

「はいっ。皇子様の柔和で暖かな雰囲気は、暁様と同じく癒しを感じまするっ」

　真っ直ぐに己を見詰めてそう言葉にした薺へ、嘘や媚びは感じられない。女子へこんな眼差しで、斯様な事を言われたのは初めてだ。旭も男故に心地好いと、表情が緩む。

「そう、かな……いやはや、推しが此の私であったとは……」

　薺の正しい推しとは旭ではなく『暁』だが、一先ず捨て置こう。何にせよ、今の旭はとても気分が良いのだ。元より薺は、そう大きな問題を起こした訳でも無いのだし。行き過ぎた無作法故、一先ず此の場限りの厳重注意程度として差し上げようと。

「あい分かった。だが、東宮妃が申された様に、此の後宮では規律を重んじ、品位を保たねばならぬ……若さ故の未熟に惑わされる事もあろう、其れは私も同じくだ。其れでも、節度ある動きを誓うて欲しい。此度は此処で、仕舞いとしよう」

　そう告げおっとり微笑む旭へ、薺はまるで天よりの光を拝むかの如く。涙を流し、気が遠退いたか座する身を崩しゆく姿へ旭が慌てたりと。
　気を取り戻した薺は、額を擦り付け旭へ強く確と誓った。取り調べは済み、一先ず皐月へ報告をと白刃を後宮へ遣わせる事に。其れを待つ時の中で、薺は旭へと改まり頭を下げた。