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「皇子様。出過ぎた事ではありまするが……私、皇子様と東宮妃様には、本当にお幸せになって頂きたく思うておりまする」
先程とは違い、神妙な表情でそう告げた薺。旭は、答えに迷いながら苦笑い。
「あ、まぁ、其の……其れなりには、ならないとだがな……」
政略結婚とは言え、此れは大きな政治の動き。況してや、歴史や伝統迄も背負うものだ。冷泉の事も、生真面目で厳格な性質であることは理解出来た。だからこそ、確信に向かう思いも。冷泉の中で此の婚姻は、西の皇子足る己の使命、国政へ携わる義務なのだろうと。勿論、旭とてそうだ。けれど、其れが確信へ向かう程に、胸の奥は霧が掛かる如く鬱蒼としてしまう。其れが妙に不愉快で、寂しくて。そして何故、そう感じるのかも分からず。
薺は、再び声の前に頭を下げて。
「私、御二方様を見ておりましたので、思うのですが……東宮妃様は、皇子様をとても強く思うて居られまする……」
等と又神妙に。しかし、此れには。
「いや、それはどうかなぁ」
突っ込まずに居れぬと、旭の口角がひきつる。ふと眺める空へは、冷泉が圧の籠る眼差しで己を尻に敷く姿が浮かんでいた。
だが、薺の表情は逆に真剣に、強い意思を見せる。
「間違い御座いませぬっ」
己を見上げ、出た声。此の迫力に、旭は身を僅かに後方へと。つい力んでしまった事へ恥じらう薺は、我に返り身を小さく縮こまらせた。
「いえ、あのっ、東宮妃様は、何だか、本当に……皇子様を……何だか、ずっと昔から思うて居られたかの如く見えて……」
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