後宮の花。

18/22
前へ
/187ページ
次へ
「皇子様。出過ぎた事ではありまするが……私、皇子様と東宮妃様には、本当にお幸せになって頂きたく思うておりまする」  先程とは違い、神妙な表情でそう告げた薺。旭は、答えに迷いながら苦笑い。 「あ、まぁ、其の……其れなりには、ならないとだがな……」  政略結婚とは言え、此れは大きな政治の動き。況してや、歴史や伝統迄も背負うものだ。冷泉の事も、生真面目で厳格な性質であることは理解出来た。だからこそ、確信に向かう思いも。冷泉の中で此の婚姻は、西の皇子足る己の使命、国政へ携わる義務なのだろうと。勿論、旭とてそうだ。けれど、其れが確信へ向かう程に、胸の奥は霧が掛かる如く鬱蒼としてしまう。其れが妙に不愉快で、寂しくて。そして何故、そう感じるのかも分からず。  薺は、再び声の前に頭を下げて。 「私、御二方様を見ておりましたので、思うのですが……東宮妃様は、皇子様をとても強く思うて居られまする……」  等と又神妙に。しかし、此れには。 「いや、それはどうかなぁ」  突っ込まずに居れぬと、旭の口角がひきつる。ふと眺める空へは、冷泉が圧の籠る眼差しで己を尻に敷く姿が浮かんでいた。  だが、薺の表情は逆に真剣に、強い意思を見せる。 「間違い御座いませぬっ」  己を見上げ、出た声。此の迫力に、旭は身を僅かに後方へと。つい力んでしまった事へ恥じらう薺は、我に返り身を小さく縮こまらせた。 「いえ、あのっ、東宮妃様は、何だか、本当に……皇子様を……何だか、ずっと昔から思うて居られたかの如く見えて……」
/187ページ

最初のコメントを投稿しよう!

103人が本棚に入れています
本棚に追加