後宮の花。

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 又ひきつる旭の表情。少し呆れた様にも笑って。 「そ、其れは、そなたの個人的なものが無いだろうか……婚礼の儀が初対面なのだが……」  何とも夢見がちな乙女だと、突っ込み処満載だ。  此処で。 「皇子様。皐月殿がいらっしゃいました」  表をより聞こえた白羽の声。静かに襖が開かれると、皐月は其の場にて旭へ拜を。 「皇子様。粗方お伺い致しました。指導行き届かず、真に申し訳御座いませぬ……!」 「良い。他への示しもある、少々強く叱ったのでな。そなたには、彼女が此れよりも前向きに職務へ携われる様に配慮を頼みたい」  先程の柔和な雰囲気ではなく、引き締めた表情にて皐月へ告げる旭。其の言葉に、薺は目を見張った。強く叱り付けられた覚え等ないのだから。先程の冷泉でさえ、冷静に思い返せば決して恐れるものでも無かったしと。  皐月は、旭へと厳かに頭を下げ聞き入れる。其の隙に、旭が笑って薺へ頷いたのだ。 「では、薺。次は、厳重注意では済まさぬぞ。動きのひとつひとつへ、此の東宮御所へ仕えていると言う自覚を持つ様に……皐月と共に、後宮へ戻りなされ」  薺は、此れに唇を噛み締めて皐月以上に深く頭を下げたのだった。  後宮へと、皐月の一歩後ろへ付き薺も足を進めていると。 「どの様な御叱りを受けたのだ?」  前を向いたままに、皐月の静かな問いが。薺は、緊張しつつも口を開く。 「いいえ。皇子様も東宮妃様も、私を斯様に叱り付ける等なさいませんでした……東宮妃様は私の行動を静かに嗜めて下さり、皇子様は私の声を聞いて下さったのです」  強く訴える様に出た声。皐月は、何やら納得した様にひとつ息を吐く。 「東宮妃様も、皇子様と同じ様な事を言うて居られたのでな」 「え……?」  目を丸くさせる薺へ、皐月が少し苦笑いを浮かべて。 「御自身が酷く叱り付けてしもうたので、経過を見守って欲しいと命じられて……」
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