後宮の花。

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 溜め息混じりの皐月の言葉であった。薺は、唇を噛み締め、俯く。ふと止まる皐月の足、同じく静止した薺を振り返って。 「薺。御二人より命じられた以上、本日私より物申す事は無い。だが、皇子様と東宮妃様のそなたへの期待を裏切る事あらば……次は、然るべき罰を与える。良いな」  静かで、厳格な声での警告。年若い侍女とは言え、皇子と東宮妃の手を煩わせてしまったのだ。女官、侍女等を指導する者として、皐月も釘は刺さねばならない。何やら、肩が震える薺の姿。心折れねば良いが、皐月の表情が僅かに曇り掛けた。と其の時、薺が結構な勢い付け顔を上げるもので、皐月は僅かに身を仰け反ってしまう。 「皐月様っ。私、此方へお仕えする為の全てを一から学び直し、頭へ叩き込みます。東宮妃様が定めた新たな規律も、全て……!」  何やら、熱い眼差しだ。更に、返ってきた言葉は皐月には喜ばしいもの。 「薺……」 「私の心に、もう迷いはありませぬ。後宮に咲いた二輪の花……御二方様の幸せを御守りする事へ、私は此れよりの人生全てを捧げとう御座いまする……!」  等と。更に熱く、瞳を輝かせそう宣言する薺は何処か遠い先を見据えている。皐月はと言うと、一体何事かと思いつつ。 「二輪の花……?人生全てとは……う、うむ。よく分からぬが、其れは良い心掛け……何処を見て居るのだ……?」  若干引き気味に、薺へ物申す姿があったと言う。  そんな事があった、皇子と東宮妃の夜。今宵は、少々旭に緊張があった。薺の話から、妙に冷泉を意識をしてしまい。そうこうしていると、何時もの如くやって来た冷泉。 「あ。冷泉殿、本日はお疲れ様でした」  腰を下ろす迄に、労いの一言が旭より出たのだ。此れに意表を突かれ、目を丸くさせる冷泉。 「お疲れは、皇子の方では?私は、特に何もしておりませぬので」
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