やって来た東宮妃。

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 とは言え、此れも好き好きの趣味。其方の方へは特に興味が持てない鑑は、呆れた表情。 「そう言えば、百合は誰を推してるんだ」  其れでも何の気無しに訊ねてみると、旭の表情が寂しげに変わりゆく。更には肩も落とし。 「百合は、『和泉(イズミ)の君』だ。優秀で顔は良くも、他者へ高圧的なのが私は気に食わぬのだが……」  そう。此の相手役とは、気性も容姿も全く違う雰囲気。故にどちらを選ぶかにより、仲睦まじい間柄であっても激しい議論となり、喧嘩も屡々。例に漏れず、旭も妹の百合と其処は意見が別れ平行線となるのだ。何とも寂しいものだと、旭が暗い溜め息。深刻な表情を横目に、鑑にはやはりどうでも良い事。  話を戻し。逃れられぬ政略婚に悲観的な旭へ、何とか元気を出して貰いたいと鑑は思案する。そして、掛ける言葉を見付けた鑑は、笑みを浮かべ旭へ肩を組む。 「蛍の君の様な御方が来るやも知れぬぞ。西の男子とは、穏やかで優しい気性の者が多いと有名だしな。況してや皇族となると、可能性も高い。遥か昔に西より輿入れされた男子の后妃様は、優しく穏やかで大層な美貌の持ち主でも在られたと……確か、画集があったろう」  暗い表情をしていた旭だったが、此れに俯き加減であった顔を徐に上げた。そう言えば、己も其の文献は記憶にあると。更に、時の帝が画家へ描かせた肖像画も多く目にしている。其れは、女性と見紛う程の美貌であった。こんな男子が真に実在したのかと、驚きと共に見惚れた程。 「そう、か……そうだったな!蛍の君の様な気性で、更に愛らしい御方か……悪く無い……西の皇子……悪く無いぞ!恋が出来るやも……!」  頬を染めて瞳を輝かせる旭の脳裏には、画集に在る様な皇子が、優美に振り向き己へ頭を下げる姿が浮かんでいた。
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