真の推しとは。

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 冷泉の実力に、佳宵帝が遂に旭の補佐として従事する許可を出したのだ。だが其処には、他者による冷泉への心酔具合の危惧も少なからず。  帝なる佳宵も、我が子が揃って愛読する『あづき』事情を知る。其れがもたらした東への影響は勿論だが、実は読本も刊行分は読破しているのだ。佳宵自身は、斯様な分野への知識は無に等しく、興味も薄かった。のだが、可愛い我が子等が揃って理解をと迫るもので手隙に。最初こそ乙女の読本かと侮って居たが、読み進める内に登場人物達の個々の魅力や、美しい言の葉の表現に舌を巻いた。そして、物語に飾られる戯画の何足る麗しきことか。危うき迄に心を掴む完成された芸術であり、娯楽であると。今では、続刊を待ちわびる程。因みに推しは、『あづき』の親友『彩姫』。清楚でおっとりした雰囲気が、亡き妻を思い出させるとか。端で進む、彼女の恋へもやきもきと。  基。なもので、輿入れに参った冷泉を初めて見て佳宵も思ったのだ。『和泉の君』が御出でなすったと。我が子可愛いさに、旭ばかりが気になるが冷泉はどうかとも。有能な上に美貌迄を兼ね備え、天は二物をときた。何より、『和泉の君』。後宮に置きっぱなしでは寄る蝶、咲く花へ目も行こう。悔しいが、我が息子旭が僅かに霞むと。来年の侍女採用試験の倍率を囁く者も出る程で、佳宵が案じる事は多い。  旭が望んだ西の皇子では無かったろう事は明白。しかし、其れは恐らく冷泉も。が、やはり友好の為にも友情迄は育んで欲しいと願うのは、佳宵も国を預かる天子故。冷泉からも旭へ敬意を抱ける様に、距離を縮めて欲しいのだと。
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