真の推しとは。

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 旭は書類を傍らへ置きつつ、複雑な思いながら冷泉の意思を訊ねてみる。しかし、視線は外してしまったが。  声の前に、頭を下げる冷泉。 「は。私自身は、不満等些かも御座いませぬ。駆け出し故、皆様のお手を煩わせるかとは思われますが……暖かく、受け入れて下さって居るのだと感じております」  冷泉の表情は、何時も通り。生真面目で、厳格な気性が伝わる。公務へ真摯に取り組む姿、立場に傲らぬ謙虚さ。同齢ながら、此の風格はやはり劣等感を揺さぶると。 「そうですか……何よりです」  心成しか、沈んだ声となってしまった旭。冷泉は、僅かに俯く旭の顔を心配そうに覗き込もうと。 「皇子、お疲れですか?もし、許されるものが御座いましたらばお手伝いを――」 「いいえ。御苦労様でした。後はお任せ下され」  我に返った旭は、顔を上げて冷泉の言葉を遮った。其れは、少々棘のあるものであったやも知れない。だが冷泉は、一瞬戸惑う様な表情を見せるも聞き入れ拝をする。 「出過ぎた事を、御許し下さいませ。では、失礼致しまする」  そう告げると、冷泉は早々に旭の執務室を後にした。冷泉の背へ、旭の声は無く。いや、掛けられずで。大人気ない嫉妬に、又やってしまったと直後の自己嫌悪に苛まれていたという。  一方の冷泉。先程仕上げた書類が全てであった為、本日はもう暇が与えられた。まだ昼前なのだがと、後宮へと戻る足は何と無く重くゆったり。先程の旭が気に掛かって。やはり、まだ確かな信頼も距離も不明確。現状へ、はしたなくも出る深い溜め息。其れを覆う笏が無い事に、少々不便を感じていると。 「とっ、東宮妃様……!」
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