真の推しとは。

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 此処を曲がれば後宮へ、そんな処で背より己を呼び止める声に冷泉が振り返った。其処には己と同齢か、下か。小柄で若い青年官吏が、何やら息を切らし緊張した面持ちで立っている。 「……何でしょう」  取り敢えず声を促してやると、身を正し深い一礼。若いだろうに、動作ひとつひとつが固く見えるのは緊張か。其の官吏は、手に持つ書類を冷泉へと勢い良く差し出してきた。もので、冷泉は、何事と少々圧倒された程。 「あのっ、此方の書類ですが……ご、御指導頂けましたらばと……!」  何故新顔の己が指導等と、冷泉は僅かに眉を寄せた。適当な者が居るだろうに、突如公務に出て来た己への洗礼かと警戒も。不本意ながら、書類を受け取り確認してやる冷泉。  とは言え、流石ではあった。見た目に若くとも官吏をつとめるだけあり、字は美しく誠実さを感じさせる。しかし。 「此方、誤字がありますな……此方も」  やはり、未熟さ故の抜かりも。指摘を受けた青年官吏は、身を寄せ書類を覗き込む。 「はっ……こっ、此れはお恥ずかしいっ……申し訳御座いませぬ。直ちに修正を……っ」  冷泉より、慌てて書類を受け取った青年官吏。何故か嬉しそうに頬を染めているもので、冷泉は怪訝な表情を浮かべるも。 「ある程度の迅速さは必要ですが……落ち着いて取り組み、確実なものを目指されよ。皇子の御手を煩わせぬ様に」  取り敢えず適当な助言を。やはり嬉しそうな官吏は、笑顔で頭を下げた。 「は、はいっ……有り難う御座いました!」
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