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瑠璃より出た言葉に、旭はたじろぐ。
「な、何を……?」
「旭の良き処よ。貴方ならば、きっと東宮妃様と絆を結べる筈……私達は、旭以外認め無いのだから」
真っ直ぐに旭を見詰めそんな事を。しかし、旭は拗ねた様に顔を背ける。
「私に自己主張無く、空気に近いからと言いたいのだろうが」
此れに、瑠璃が肩の手を放しつつ。
「そうだけれど、其ればかりではないわよ。まぁ、本人の貴方には分からぬのかしら……貴方には、貴方にしかないものがあるのよね。皆、ちょっと羨ましいのよ」
何やら含みある意見と共に、笑みを溢す瑠璃を何と無く横目に映す旭。
「何だ其れは……」
訊ねてみるも、瑠璃ははぐらかす様に部屋を出て行った。旭と冷泉の為に己も動いてみる等と、訳の分からぬ一言を付け足して。何時もの如く、風を吹かして去って行く奴だと呆れる旭は、先程聞き及んだ話を思い出す。冷泉へ寄る者は、男女別無く多いのだと。其の話に、己は今言葉に出来ぬ不快感がある。何だろうか、同じ皇子として生まれながら異なる資質の差による敗北感か、妬み嫉みか。だが、其れだけでは無いのだと。何とも分からぬ不安が、冷泉への苛立ちを募らせるのだ。だが、敵わぬ相手へ何故斯様に感情を向けるのか。部を弁え生きてきた旭にはこんな事は初めてで、単純に片付けられずいたから。
胸の支えは其のまま。溜め息をこぼしつつ、悩む暇は無いと旭は再び筆を取った。一先ず落ち着き行く心。何時もと変わらぬ空気の中で、執務を行う旭の耳へ。
「皇子様。宜しいでしょうか」
表へ控える護衛、白羽の声。
「ああ。構わない」
旭は筆を執るままに答えを。すると。
「今しがた、届きました」
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