真の推しとは。

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「違う世界の御方みたいだものな……」  見目麗しく人目引く冷泉と違い、己は本当に詰まらぬ男だと旭は落ち込む。面も能力も、良くも悪くも目立たぬ主張の無い皇子。幻想的な読本の恋に憧れ、父母の在り方へ憧れ。しかし其れは、劣等感ばかりが際立つ婚姻により挫かれた。冷泉が己へ見せる笑顔、優しさ、誠実。其れ等全ては、后なる立場へ望まれる忠義と義務なのだと思うと居たたまれず。せめて、張り合える程の能力であれば切磋琢磨し、友情も芽生えたやも。だが、張り合う等片腹痛い。劣等感と嫉妬が渦巻き己が惨めなだけ。況してや、恋等するだけ虚しいではないか。傷付く事が目に見える道へ踏み込む度胸等、旭には無いのだから。 「立場が逆なら、私はもっと惨めだったかな……」  かと言え旭は、側室を見出だそう等と思う程好色でもなく、女子の扱いに長けてもいない。此処で以前に鑑が、己の初恋の相手を探してやろう等と提案した事が頭の隅にぼんやりと。もたげた頭を上げて見たが。 「駄目だ……やはり、美少女であった事しか思い出せぬ……っ」  頭を抱えた。余りにも朧気な記憶にいる其の美少女は、どうしても顔の印象以外思い浮かばぬもので。鑑曰く、そんな情報だけではと。其れに例え其の娘が来たとして、己を愛してくれるか、己も愛せるかと問うと答えは出ない。己は、一体どうしたいのだと。考えれば考える程疲労が増し、旭は眠気に誘われ机へ突っ伏してしまったのだった。  其れより暫く。静かに、旭の執務室の襖が開けられる。白羽が入室を許した人物、其れは冷泉であった。冷泉は、上の机上にて突っ伏す旭に気が付けず其の場で一度拜をする姿。 「――皇子。失礼致しまする。瑠璃殿より急遽頂いたお仕事を、仕上げて参りました」
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