やって来た東宮妃。

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「しかし……帝を差し置いての后妃様だが、名と世没年位しか記されて無いんだよな。伝記位ありそうなものとかなり探したと言うのに……あの后妃様を詳しく知りたいなぁ」  ひとつ疑問を口にする鑑。 「確かにな。だが、きっと素晴らしく優秀な后妃様に違い無い。公務に臨む、美しくも凛々しい御姿が目に浮かぶ」  疑問解決には至らぬが、旭が明るくなったので良しとしよう。鑑も一先ず、疑問を捨て置き笑顔を見せたのだった。  斯くして、希望を見出だした旭。もし、己が推す様な皇子が来るならばと。何より、原作者が西の民とあって、描かれるのは雅やかなる西の宮廷を模した世界観も憧れだ。蛍の君とは、西の男によく見られる気性を模擬されているのだから。願わくば、あの肖像画の様な后で在られたならばと、旭は祝言の日を待ちわびさえした。  処が、そうは問屋が卸さずと。其の善き日は、少しずつ夏に傾き強くなりだした明るい日が射す日。東の御所の庭には、美しい百合の花が風に揺らめく季節。此の日は、東西友好記念日。嘗て、初の東西皇家による婚儀が行われた日なのだ。東からは、旭の妹、皇女百合を乗せた馬車が西へ向け東を発っている。  明るくも大きな歓声が響く東の御所前。民の注目は、西より参った雅やかな牛車だ。大きく開かれた門より、ゆったりと。其れを迎えた東の帝、そして皇子である旭。共に、東にて格式高い出で立ち。裾広がりの襞が美しい袴に小袖、其の上には裃と呼ばれる上衣を身に付けたものだ。黒を基調とした其の様は、荘厳で凛々しい装束である。  揃う者等全てが共感する緊張と期待に溢れる中、護衛が屋形の戸を開けたのだ。其処より出でたのは、西の第二皇子にして現在は帝弟。季節を表す袍を纏った美しくも雅やかで、それでいて厳かなる装いに笏を携えて。更に東と異なる特徴を際立たせるのは、公に髪を晒さぬ習慣のある西の男子故の、格式高い垂纓冠を頭上に頂いている事。  そして、此処からが大切。其の容顔は、何と美しきことか。鋭く厳格な雰囲気醸す瞳に、心囚われる美丈夫だ。並ぶ皇家の姫や貴公子も思わず見惚れる程。
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