真の推しとは。

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 暫し声を待った冷泉だが、何も言うてくれぬと改めて上を見詰めた処で。 「皇子……っ」  突っ伏す旭に気が付き、大事かと焦った冷泉は静かに駆け寄った。よく見てみると、穏やかな寝息を立てておいでだと安堵する。そんな旭の机上の前に、一先ず腰を降ろしてみた冷泉。突っ伏すも、腕を枕に寝顔を覗かせている旭へ冷泉は微笑んだ。其の瞳は何とも穏やかで、優しくて。旭含め多くの者が抱く、冷泉の心象からは遠いものであった。冷泉は、旭の頬へ軽く触れる。触れた指先から、柔らかな感触が伝わって。目覚めぬ旭を見詰める冷泉の瞳は、先程の笑みをおさめ憂えたものへ変わっていた。其れは、とても切なそうで。  暫くそんな旭を見詰めていたが、起きる気配はやはり無い。冷泉は、仕上げた書類を手にし又時を改めるかと。片膝を立てた処で、突っ伏す旭の腕の下より覗くものが視界に。其れに、目を見張り固まってしまう。  そう。其れは、旭が広げたままであった読本。あづき姫、蛍の君編の挿し絵頁である。其れを目にした途端、冷泉は暫し微動だにせず。しかし、手にしていた書類が握り締められ音を立てた。震える其れは、何かを堪える様で。漸く動いた冷泉の身は、静かに旭へと背を向け其のまま、部屋を後にした。旭が目覚めたのは、此れよりまだ暫く時を経た頃であったという。  其の夜。何時も通り寝室にてやって来た冷泉だが、表情が何時にも増して凄味が見えると。本日、機嫌を損ねる何かがあったのか。まさか、昼間の己が見せたやっかみか。冷泉はと言うと、怖じ気付く旭へ儀礼的な挨拶の後で早々に布団へと。 「――あの……冷泉殿、如何なされた……?」
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