紅に染めてし心。

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「皐月殿。此度の公務に関する、交通事情等を把握出来る地図を頂けませぬか」 「は……地図、に御座いまするか?」  何の為にと、困惑気味の皐月。東宮妃なる冷泉は、皇家の馬車にて向かうので斯様な心配御無用かと。皐月のそんな違和感に気が付いた冷泉は、苦笑いを浮かべて。 「兄の護衛をしていた頃よりの癖でして……主と己が行く道を把握して居らねば、落ち着かぬのですよ。暇も潰せますしな」  冷泉の経歴に、皐月は更に驚く。 「まぁ……東宮妃様が、西の帝の護衛を?」 「ええ。故に、あらゆる緊急時を想定し動かねばと……兄には、お前は心配性だとよく笑われましたがね」  兄の言葉を思い出し、気恥ずかしげに笑う冷泉。幼い頃より、此の性質故に他者へ誤解を与える事も屡々。兄はそんな冷泉を案じ、共に職務を担う西皇家の者との仲立ちを影で担ってくれていた。しかし、此処ではひとり。一から、己を理解して貰わねばならぬと言うのに。 「いけませぬな。皇子も、私の様な者が伴侶では心休まらぬでしょう……」  溜め息交じりにそう言う冷泉は、己へ呆れた様に笑ってみせて。けれど、其れが酷く寂しげに見えてしまった皐月は表情を曇らせる。旭と冷泉の距離感は、常々皐月も気に掛けていたので。冷泉は生真面目さ故か、真摯に向き合おうとの印象。旭も、困惑はあれど冷泉への嫌悪は見られない。どちらかと言うなら、遠巻きながらも動向を気にして居られると分析。  皐月は冷泉へ、声の前に頭を下げる。 「恐れながら。皇子様は、あの通りとてもお優しくてお人柄も良いのです。私共の中でも、皇子様をお慕いするが故にそちらを案ずる者も……ですので、誠実で慎重な東宮妃様との御縁は皇子様にとって、とても良きものに御座います」
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