紅に染めてし心。

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 己の素直な思いを言葉とした。母の如く思いで仕えてきた旭の伴侶は、誠実な御方を望むと常に。旭と百合を頼むと告げて逝った、后妃の思いでもあるのだから。 「皐月殿……貴方が付いて下さる事は、とても心強い」  そう言う冷泉の表情は、まだ青くもある年相応の笑みであった。とは言え、やはり見惚れる程の美しさだ。驚きと共に見とれ、少々染まる頬を誤魔化す皐月。厳かに拝をした後で、冷泉所望の地図を手配しに向かったのだった。  一方。旭の方へも佳宵よりの書簡が届いていた。そう、東宮妃冷泉の御披露目に付いてである。とうとう此の日が来たと、旭も多少構えがあったのだが。 「――い、今の状況で馬車旅……」  素直に厳しい。其の日迄に何とか空気を和らげたいのだが、そう猶予も無いと。本日中にでも多少の変化があれば良いが、両者の性質によるすれ違いの中では困難な事だろう。  結局。冷泉も心定まらず、公務の為に旭の元へ赴くも以前に増し儀礼的に。そして旭は冷泉がこうなると、勢いも勇気も雲隠れ。亭主足るとは如何にである。寝室でも、其れは変わりなく。悩み落ち着かぬ旭は、連日寝不足気味ともなってしまったりと。  双方何一つ変わらぬ空気の中、其の日は迫ってしまう。其の前夜、寝室へ向かう前迄冷泉は地図を眺めての最終確認。癖と性分とは言え、有り余る暇を使うには良いものとなった。お陰でまだ行っても居らぬのに、必要以上に詳しくもなってしまいと。 「――気になったのですが……此方の道より此方の方が近くはありませぬか」
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