紅に染めてし心。

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 冷泉は、明日馬車が通る道について気に掛かっていた事を皐月へ訊ねた。  冷泉が地図を指すのは、此度の公務へ馬車を走らせる道程。崖がある等、危険でも無いと言うのに回り道をする様に感じて。何か、験でも悪いのだろうかと。  皐月が苦笑いを浮かべて、其の道を軽く指で辿る。 「此方の道は、皇家の馬車を走らせるには狭いのです。他の馬車は、取り敢えず問題無いのですが」  冷泉は、成る程と納得する。地図で見る道では、其の幅は分からなかったもので。ならば西より己と参った牛車も、そう言った理由で道が選ばれたのだろうと。  更に、皐月の指が其の道程にある橋を指した。 「後、此の橋が本日より補修工事に入りましたので、他の馬車の通行が此方へ増えるやも……馬一頭位なら、此方の更に狭い道を行けますが」  語られた捕捉へ、冷泉は腕組みしつつ苦笑い。そちらの方が素早く、合理的に見えて。 「己で向かう方が気楽ですな」  そんな言葉へ、皐月は目を丸くさせた後に吹き出してしまった。 「東宮妃様ったら……皆様が驚かれますよ」  立場上そうもいかぬかと、冷泉も笑みが溢れる。何はともあれ、皐月のお陰で疑問も解消された。 「しかし、工事の事情迄把握しておられるとは頼りになります」  冷泉の賛辞へ、皐月の表情は少し複雑な笑顔に。 「実は、私の次男坊が大工の端くれでして……此の工事に携わると、偶々に御座いまする」  冷泉は控えめながら、驚きを見せた。東宮妃なる冷泉へ付く女官ともなる皐月は、出生や配偶者迄の情報を予め紹介されている。其れによると、子の職種が少々意外であったと。 「御子息は、職人で在られまするか」  皐月も、冷泉の驚きが理解出来る様子。皐月自身も東の中級貴族の出であり、夫も同格の家柄、共に宮仕えであるのでと。皐月は、苦笑いを浮かべつつ。
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