紅に染めてし心。

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「そんな大層なものではありませぬ。昔から読み書きより、物作りを好んで……父親と喧嘩して飛び出しまして、勝手に弟子入りを……」  過去にあった、親子のすれ違いを思い出したのだろう。皐月に浮かぶ笑みは寂しげであった。しかし、深い呼吸の後で。 「まだまだ未熟ですが、腐らず精進を重ねている様で……あの子の思いを受け止めてやらねばと、漸く私と夫も……」  冷泉へそう語る皐月は、息子を誇らしく思う様にも見えた。冷泉も、表情を和らげ頷く。 「御子息の思いが真ならば、決して己を裏切らぬ筈です……両親、家へ背を向けてでも己を貫いた者が、夢を叶えた姿を私は知って居ります。御子息もきっと、素晴らしい職人になられましょう」  語られた冷泉の話は、皐月にはとても心強く響いた。 「東宮妃様……有り難う御座いまする。息子へ、東宮妃様の御言葉を伝えておきます」  東宮妃より頂いた我が子への激励に、皐月は声を掠れさせ拝と共に礼を述べたのだった。  そして。やって来た次の日だが、二人の空気に変化は無く。旭は、連日の公務と此の現状に定まらぬ心故の寝不足。床を出てから体が重く感じていたのだが、食欲は其れなりにあるので栄養を摂れば大事無かろうと。  行きの馬車でも、冷泉との会話は特に弾まずであった。其れでも、軽い会話を試みた中で、隣に並ぶ冷泉が旭の顔を神妙に見詰める一瞬が。 「――あ、あの、どうなさった?」  旭は、状況に勢い良く跳ねる鼓動へ困惑していた。無意識に視線を反らしてしまう程に。  暫く間を置いた冷泉であったが。 「皇子。お疲れが溜まっておいでなのでは……?」  訊ねる冷泉へ、旭は目を丸くさせた。其の後で、何方のせいかと少々不満も。しかし、此処は穏便に済ませねばならない。
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