やって来た東宮妃。

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 此れを確認した旭の心情は、期待をしていたのと全く違う印象だと呆然としていた。更に最も気になったのは、妹が推す和泉の君に似てはおるまいかとも目を凝らす。にしても、背丈も旭と比べ頭ひとつ分では済まぬ程、己より力強い体格も又。とにかく違う。手前勝手に期待し夢見た肖像画の后妃、そして何より重要な推しの面影処か、じゃ無い方が来たと。  西の皇子と付きの臣下は、声を出さずに佳宵へ先ず厳かに頭を下げた。 「――ようお越し下さいました。此の東を任されておりまする、佳宵と母より賜りました者に御座いまする。そして、此方が我が第一子」  西の皇子へと佳宵の名乗りを促す言葉に、旭が我に返り慌てて頭を下げる。 「お、御初に御目に掛かります。私は、東の帝第一子、旭と父より賜りました者に御座いまする……っ」  緊張からか、少々妙な声が出た様な。佳宵は、内向的な息子をよく知る故に此の様子を案じていた。西の皇子へと、苦笑いを浮かべて。 「申し訳ありません、皇子。貴方の余りにも華やかな御姿を目にし、緊張しておる様で」  つい、過保護を。此れに如何なる印象を抱いたか、西の皇子なる人は一先ず一度顔を上げる。只、笑みが一切見られない事に旭は喉を鳴らしたが。 「東の帝。東の皇子。御初に御目に掛かります。私は、西の前帝第二子。現在は帝弟となります、冷泉(レイセン)と父より賜りました者に御座いまする」  名乗りの声に、取り敢えず安堵する佳宵。世継ぎではないこともあり、此れ迄に改めて紹介があった訳では無かった。しかし此の度、佳宵は西の前帝より冷泉についての書類を受け取る際、紹介を兼ねた書簡をも受け取っていた。其の一節には、見た目其のまま厳格な気性と。合間見えても伝え聞いたままの雰囲気であった冷泉へ、温室育ちの坊である息子との相性を憂えずには居れなかったと言う。
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