紅に染めてし心。

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「皇子……?」  何かが妙だと。冷泉は眉間へ皺を寄せ、声を掛けるも答えは無く。旭へ触れ、体勢を整えてやると目を見張った。苦し気に聞こえる微かな呼吸、そして触れた頬から伝わる熱。医学知識等無くとも、意識が定かでない事は明らか。此れは、大事である。 「直ちに馬車を止められい!」  冷泉が、屋形より大きな声で命を出した。幸い、現在通る道に後方の馬車等は居らず直ちにの停車が可能であった。屋形の扉が開かれ、旭の側近が屋形内を確認に来た。 「如何になされましたか、東宮妃様……!」  冷泉が上げた声に、何事であろうかと側近も動揺気味だ。冷泉は、倒れ掛かる旭の身を支える様に抱きながら表情を険しくさせる。 「大事である!皇子の体が、酷く熱を持っておいでなのです。声掛けにも、御応えが頂けぬ……!」  側近も、旭の様子に青ざめた。 「なっ……!た、直ちに!」  動揺の中、其れでも早急な対処をと声を上げた。程無く駆け寄った医術班。勿論、緊急の為にあらゆる処置が出来る様に準備はある。しかし、旭への処置は応急措置的な緩やかな効果の薬のみが処方された。 「――御殿医の正確な診断を下せぬ以上、皇子へは処方しかねる薬も御座いますので……」  原則として御殿医と認められた者は、常に帝の元へ居らねばならない。そして、帝、后妃、子等の御身へ処方する薬や処置の最終判断も担うのだ。今回は、近隣の町へ日帰り公務。旭は特に持病も無い上、今朝迄旭の体調に異変は無かった事等が重なり、本日移動に付き添った医師は其の資格迄は持たぬ者であったのだ。医師、側近等は、不測の事態へ拳を握り締めた。一刻も早く、御殿医へ診察させる必要があると。側近等は、頭を抱えた。
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