紅に染めてし心。

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「此処より先は、込み合う可能性がある……緊急誘導も、今から交通量を押さえ込むには……っ」  本日は、かなりの難題となる。其れでも、何とか旭を早急に御所へと。やるしか無い、決意と共に険しい表情の側近等が顔を上げた。そんな中。 「馬を一頭、御借り申す」  冷泉の声であった。そして、旭を抱き上げると屋形の表へと。集う側近等は、冷泉の言動へ狼狽えた。 「と、東宮妃様、馬で、一体……」  目を丸くさせる側近等の間を抜け、護衛が乗って来た多くの馬が控える方へ足を進める冷泉。 「馬車ではどうしても道は限られ、時を要する。私が御所迄御連れ行く」  側近等が表情を強張らせ、一瞬声も忘れてしまうも。 「しっ、しかし、東宮妃様……!」  足を進める冷泉を追い掛けながら、意見を。東宮妃なる冷泉が斯様な事、一頭の馬で皇子なる旭を連れ行く危険。側近は其れを肯定する訳にもと。  だが。 「早う成されよ。皇子の御身へ何かあれば何とする」  軽く振り返り、鋭い眼光を向けての一喝。其れは怒鳴るでは無くも、強く険しい声であった。側近等は、其の凄味に硬直し。 「ぎょ、御意にっ……!」  直ちに其の様にと頭を下げたのだ。旭と冷泉の護衛へと共に来たのは、治安維持部隊と称される東の特殊部隊。彼等も、異様な緊急事態と旭の容態に動揺を見せていた。冷泉へ事情を説明され、ならば己の馬をと声を上げる。冷泉は、粗方馬の表情や雰囲気を見て相性が良さそうな一頭を選らんだ。のんびりはして居れない。旭を抱え、馬の背へと早々に乗り込む。 「現在の位置は」  冷泉が、側の治安維持部隊員へ確認を。 「此の辺りですと……都南(みやこみなみ)、六の丑(うし)に御座いまする!」
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