紅に染めてし心。

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「承知した」  頷く冷泉には、既に其処より御所へ向かう最短の道程が決まった。其れが理解出来ぬ治安維持部隊員、側近等は不安の表情である。 「東宮妃様っ!せめて数名の護衛と、道案内を――」 「案内は結構。行く道は決まりました……そちらの道は、他への迷惑も考えねばなりませぬ。より身軽で向かいたいのです」  声を上げた側近等は、驚きと困惑を隠せぬ顔を見合せつつも声を飲み込んだ。冷泉は、腕の中にいる旭へ顔を向ける。 「皇子、少々御辛抱下され」  其の声は、静かに旭の耳元で告げられるが答えは無い。依然、伝わる旭の熱と苦し気な呼吸へ、冷泉は其の鋭く厳格な瞳を酷く憂えさせた。だが、其の表情は直ぐに改められる。旭の身を抱く腕に力を込めて。  そして、冷泉の背を追って来た人物へ。 「白刃殿、護衛を御願いしたいのです」 「はっ!」  白刃も此の命へ強く答え、己の馬へと早々に乗り込んだのだった。  向かう道は、昨夜皐月が教えてくれた道を選択。冷泉の迷い無い馬の誘導へ、従い付いて行く白刃は素直に驚いていた。何故、最近やって来た東宮妃が、異国の事情を此処迄詳しく把握して居られるか。今行く道等、抜け道であり、知る人ぞ知るものであると。  都の賑やかな通りへ入ると、皇子を抱え道を行く東宮妃の姿へ民達は勿論騒然となったが、其れへ脇目も振らず御所を目指す冷泉。其の甲斐あってか、旭は直ちに御所へ。当然、門番から伝わり御所の臣下達も何事と狼狽える。直ちに呼ばれたのは、御殿医と帝の側近。初老の男二名が駆け寄るそちらへ、旭を抱き馬を降りた冷泉が振り返る。 「――東宮妃様っ。皇子様に、何がっ……!?」  帝の側近である男は、青ざめ訊ねた。御殿医は、直ちに旭の診察へ。 「皇子が御公務中に高熱を出された。応急措置に処方された薬は、此方です」
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