紅に染めてし心。

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 冷泉は、処置をした医師よりの書簡を手渡す。其れを受け取った御殿医は、冷泉の腕にてぐったりしている旭の容態を確認する。 「見立て通り現在の症状なら、重症に繋がる感染症等の可能性は低い様ですな……とにかく、皇子様を中へお連れせねばなりませぬ。帝へも御報告を」  弟子へ指示を出した御殿医へ、側近も佳宵の元へと急ぎ駆け出した。其れを機に、冷泉が旭を抱えたままに腰を上げる。 「と、東宮妃様……?」  担架を用意させていたがと、目を丸くさせる御殿医を気に掛ける事なく。 「私が御連れ行く。部屋への誘導を御願いしたいのですが」  静かな声であると言うのに、何やら意見出来ぬ空気が伝わった御殿医と弟子。 「か、畏まりました……!」  直ちにと、御所内へ設けられた旭の私室へと案内がなされたのだった。  漸く、布団へと落ち着いた旭の身。駆け付けた佳宵も見守る中、御殿医が再び慎重に診察し、現在の旭へ相応しい薬を処方し事なきを得た。 「――御疲れが溜まって居られたのでしょう……体力の回復を促す投薬も行いました。皇子様の御容態は、直ぐに落ち着かれましょう」  呼吸が徐々に落ち着く様子へ、御殿医も薬の効果に安堵する。皺が目立つ顔へ浮かぶ、優しい笑み。勿論、其の場へ控えていた佳宵と冷泉も胸を撫で下ろした。 「冷泉殿。そなたのお陰だ」  頭迄を下げる佳宵へ、冷泉は恐縮し拝をする。 「飛んでも御座いませぬ。其れよりも、私の独断にて、皇子を馬一頭にて移動させる事になりました。身の危険も、無い訳では無く……大変申し訳御座いまぬ、帝」  佳宵は、冷泉の詫びへ首を横へ振った。 「楽になされ。そなたの判断のお陰だ。息子を案じ、送り届けてくれた事……父として、心より感謝致す」
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