紅に染めてし心。

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 佳宵の言葉は、素直なものであった。息子夫夫を常日頃案じていたが、白刃の報告に驚いた程。何時も冷静な冷泉が旭を酷く案じていた様子や、此処迄に至る判断と動きも。個人的な見解ではあるが、白刃の目には冷泉の旭への心が見えたと。其れなりに絆も生まれつつある事へ、心より安堵したのだから。  佳宵は、下の方へ控えていた側近へも顔を向けて。 「東宮への帰還は、旭の容態が安定した後で良い。旭の公務は、私へ回す様に」 「御意に」  側近は厳かな拝の後、早々に命の為に動き出した。静かな部屋に、旭の穏やかになった寝息が聞こえる。佳宵は、其の顔色を確認し優しい父の笑みを浮かべると、再び冷泉の方へと顔を向けた。 「私は戻らねばならぬ。冷泉殿、東宮への連絡は済ませて置くでな。本日は、此方で過ごされよ……そなたへ旭を任せる」  冷泉は、佳宵へと厳かに頭を下げる。 「御意に」  冷泉へも優しく微笑み、頷く佳宵も再び公務へと向かって行った。  部屋には、最早旭の寝息が聞こえる程静まり返ってしまった。只、其の寝顔を見詰める冷泉。 「皇子……」  呼んでみるも、返ってくるのは穏やかな寝息だけ。冷泉は、旭の額へ触れる。己の掌より伝わる旭の無事を確かめて、安堵の溜め息を吐く。触れた手をおさめ、冷泉は又旭を見詰める。其の瞳は、やはり酷く憂えたもので。  そんな中。 「ん……」  旭が寝息以外の声を上げた。冷泉は、目を見張り旭の顔を覗き込んだ。ゆっくりと、其の瞼が開く。 「皇子。気が付かれましたか」
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