紅に染めてし心。

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「えっ……!れ、冷泉殿っ!?」  目の前にあった冷泉の顔に、旭は酷く動揺し身を起こし掛ける。しかし、冷泉が旭の肩を掴み制した。 「いきなり動いてはなりませぬ。皇子は、御公務中に倒れられたのですぞ」 「倒れた、公務中に……では、此処は……」  冷泉の言葉へ、旭は再び床へ戻された身で首だけを動かした。見慣れた、少し懐かしい景色。 「東宮では無い、な……」 「御所の、皇子の御部屋に御座います」 「そう、か……」  旭は、呟き天井を眺めた。其れはぼんやり、虚ろに。そんな旭の心情は、己の不甲斐なさに呆れ果て最早可笑しくもあった。こんな大切な日に、何と無様な。記憶が途切れたのは、馬車に揺られている頃だろうか。まだ御所迄はかなりあった筈、交通量も多かった事も覚えているので、きっと多くを捲き込んだのだろう。次期帝足る己が。いや、そんな資質等己には無いのやも知れぬ。旭の中の、冷静な心が己自身を諭すかの如くそんな意識を流れ込ませる。見詰めた天井が、滲みぼやけて。 「皇子。何か望むものは御座いますか……食事や飲み物等、私が参り――皇子っ!?」  再び旭を覗き込んだ冷泉が、旭の潤んだ瞳に酷く動揺を見せたのだ。そんな冷泉の声と意外な様へ、旭の意識は驚きと共に涙も止まった。 「如何なされたっ。もしや、又熱が……!」  狼狽え、旭の額へ手を触れる。更に驚く旭は、緊張と共に顔にのみ熱が込もってゆく感覚が。けれど、其れはひんやりと心地好い掌。そして、神妙に其の熱を確かめつつ。 「先程よりの熱は無い……しかし、直ちに御殿医を!」  片膝を立て、腰を上げた冷泉の羽織を慌てて掴み制する旭の半身も起き上がった。 「いえっ!だっ、大事無いので……っ!えっと、腹ですっ、腹の虫のせいですっ」
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