紅に染めてし心。

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 固い笑顔で、旭は頷き現在の体調を示す。きっと処置のお陰だろう、今朝からあった倦怠感は随分和らいでいるのだから。冷泉が斯様な状態で御殿医等呼んだらば、又皆を驚かせてしまう。  冷泉は、旭の固い笑顔を神妙に見詰める。医術の心得迄は流石に無いが、顔色は悪くは無い様に見えると一先ず納得する。食欲があるのも、体調に良い兆しやもと。 「では。夕餉前ですが、軽食を御願いに――」  先程口にしてみた適当な理由が、適当では無かった様だ。旭は、再び冷泉の羽織を掴む。 「いえっ。あの、皆と同じく夕餉を頂ければっ」  其の言葉へ、冷泉は再び旭の表情を見詰め腰を落ち着けた。何故冷泉が、こうも甲斐甲斐しく動くのだろうかと旭は訳が分からない。今日迄、殆ど無視に近い雰囲気で居たのにと。  そして、又沈黙が。徐々に俯く旭の顔。 「御迷惑を御掛けし、真に申し訳無い……こんな日に、私は何と無様な……」  言いながら、喉へ痛みが込み上げる旭。冷泉は、旭を見詰めたまま暫し声は無かったが。 「私は、迷惑等掛けられて居りませぬ。皇子が今、御元気に変わらず此処に在られる……感謝しております」  冷泉のそんな気遣いは、今の旭には辛いものであった。此の期に及んで、掛けられる情けが。布団を握り締め、再び滲む視界。悔しい。全てが違う。美しさも、華やかさも、能力も、度量も。 「……私が東の皇子であるからと、無理に気を使うて頂かずとも結構です」  旭から出た声は、堪えていた冷泉への妬み嫉み、そんなものを含んだ冷たい声。此れに冷泉は、怪訝に眉を潜め旭を見る。 「皇子……?」  俯き、震える旭の肩。布団を握り締め、込み上げるものを抑え様とするも最早限界。
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