紅に染めてし心。

17/24
前へ
/187ページ
次へ
 冷泉は、旭へ何物申すでも無く素早く立ち上がり部屋を出て行ってしまわれた。てっきり、御叱りを受けると思った旭は拍子抜けしてぼんやりと。しかし、我に返ると冷泉を追いに己も表へ出た。  其の襖を守って居た白刃が、目を丸くさせつつも改まり跪く。 「皇子様。御身は、もう大事御座いませぬか」  白刃の冷静な声に、旭は辺りを見渡した後小声で。 「あのっ、れ、冷泉殿が出て行かれたかと……」 「は。皇子様がお目覚めになられたのでごゆるりと休まれる様に、御自身は暫しお庭へと」 「お、お怒りで在られたか……?」  全く空気の違う白刃は、旭の不安そうな表情が理解出来ずに居る様子。 「は?いえ。何時も通り静かな雰囲気で在られましたが……如何なさいましたか?」 「え……い、何時も通り……」  意外な返答に又も拍子抜けしてしまう旭。先程の様子から、そんな雰囲気はと。悩みながら庭の方へ顔を向ける旭だが、やはり謝らねばと部屋を出た。が、白刃が其れを止める様に両肩へ軽く手をあてる。 「皇子様。動かれて良いのですか?先程迄意識も無かったのですから、御無理は……」  白刃の心配に、旭は面目無さげに俯く。 「いや。庭を歩く位どうと言う事は無いさ……其れより、白刃や皆へも真に申し訳無い。交通等、大変だったのでは……」  此れに白刃が笑みを浮かべ、頭を下げた。そして。 「東宮妃様が、御所迄の最短の道程と交通量も把握して居られ、皇子様を抱いて御自身が馬で向かわれると御判断を……」  又も、理解が追い付かぬ言葉が。 「れっ、冷泉殿が、自ら連れて来て下さったのか……」  白刃は確りと頷く。旭は、今聞いた状況を想像し顔から湯気が出そうになる。其れに、其処迄手間を掛けさせて置いて先程の振る舞い。此れも恥であると。いや、下手をすれば東の品格、父母等の在り方へも誤解をさせ兼ねぬ。  赤くも青くもなる忙しい旭の表情、そして頭の混乱。そちらはさておき、白刃が徐に頭を下げて。
/187ページ

最初のコメントを投稿しよう!

103人が本棚に入れています
本棚に追加