紅に染めてし心。

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「意識の無い皇子様を酷く案じて居られ、何時も冷静な東宮妃様が声を荒げて……正直、驚きました。出過ぎた事やも知れませぬが、東宮妃様は皇子様が信頼するに足る御方であると、私の中で確信も」  白刃が、神妙にそう話す様へ旭は無意識に庭へと足を進め出した。 「皇子様、御身は……」 「大事無い。私も庭へ行く……直ぐ戻るから、待機して居てくれ」  案じる白刃へ、旭は其れだけを告げて庭へ向かった。足を進めながらも、まだ冷泉へ掛ける言葉は整っていない。けれど、先程の白刃が告げた真相がやはり気になって。何故、冷泉が斯様な事をと。旭の中では、己等の間に其れ程の絆がある様に認識していない。義務か、敬意か。他への体裁か。そうで無いならば、何故全てに於いて自身に劣る夫へそんな姿を見せるのだと。  しかし、何故こうも他者の振る舞いに感情が左右されるのか、旭は己自身も理解出来ないでいた。己は、何時も他者との適当な距離を何と無く判断出来ていた筈と。であるのに、格差甚だしい冷泉へ嫉妬と苛立ちばかり。旭は、冷泉の不可解な優しさが何故か不安で堪らないのだ。全て国の為、我が君の為だと言うならばはっきりと告げて欲しい。其れ意外は、無いのだと。  旭は、冷泉の姿を探し庭を見渡す。まだ少し、頼りない足の歩みを進めて。様々な動揺のせいか、鼓動も早い様だった。緊張もある。其れでも今は、冷泉が気に掛かって。と、此処で病み上がりの旭は現在の心境も相成ってか、立ちくらみを覚える。傾き掛けた、旭の身。  しかし。 「皇子……!」  ふらついた旭の身へ、背後より声と腕が伸びてきた。支えられ、顔を上げると。 「冷泉、殿……」
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