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「いいえ、この娘は生まれてことから、卑しい身分の生まれ故、話すことを学ばせておりませぬ。それに名前もございません」
「あら、どうして?」
「名前は、姫様が付けてあげてくださいませ。何故ならこの娘は、マルガリーテ様のためだけに生まれ、これからもそう生きるのですから。ならば、ご主人様たるマルガリーテ様が名付け親になるのが妥当でございましょう」
「あら、いやよ、主人だなんて。私はこの子と対等なお付き合いがしたいわ」
すると、ダンテは苦笑した。
「それはそれで姫様のお好きに。でも名前だけはお付け下さいませ。そうしないと、私どももこの娘の世話をするとき、なんと呼べば良いか、困ります故」
「……わかったわ」
私は、暫し思案に暮れたあと、黙りこくったままの彼女に優しく声をかけた。
「じゃあ、あなたは、コンスタンチェ。今日からあなたを、コンスタンチェと呼びましょう」
するとコンスタンチェは、心なしか頬を赤らめ、ダンテに促され、ぺこりと私にお辞儀をした。私はそんな今コンスタンチェの痩せ細った手を取る。
「よろしく、コンスタンチェ」
握った彼女の手は冷たかったけれど、私は、その日、何者にも代えがたい友人を得た。
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