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暫く刺繍に集中していると、先程の投稿サイトから通知メールが届いた。
俺は作業を止めて、パソコンのメールをチェックした。さっき投稿した作品に感想メールが来たらしい。いつもの奇特な一人からだった。
『こんにちは。
新作、読みました。
今作も胸を抉るような辛さが伝わってきて、思わず涙が溢れました。
また辛い事があったんですね。
そんなに辛い恋ならば、違う人を好きになれればいいのに……と思うけど、それが出来ない君の苦しみが伝わってきて、僕も胸が痛いです。
それでも、君の熱くて深い愛情が僕にはとても魅力的に感じます。
これからもどうか無理をしないで、君が幸せになることを影ながら祈っています。
赤虫 』
HNが赤虫でアイコン画像が恐らくコンクリートを這っている赤ダニだ。
一体何を考え、どういう奴なのかさっぱり分からないが、こういう訳の分からないものの方が俺は案外好きだったりするから、俺的にはこのアイコンで好感度が上がっている。
これがもしもめちゃくちゃ綺麗な花だとかファンシーなアイコンを使って、小綺麗なHNから、優しいメッセージを貰ったら、俺の場合は逆に「この偽善者野郎!俺のような糞虫を見下していい気持ちになってんじゃねえぞ!!」と罵りたくなってしまう。
──いや、分かってる!
偽善じゃなくて本当にそう思ってくれる奴もいると思うが(いるのか?)、俺の場合、根が腐っているせいか、お綺麗すぎると信用出来ないように出来ている。だから、赤ダニという訳の分からないチョイスをする奴の方が俺には何故か安心できる。こんな小さな虫。興味がなければ目にも留まらないだろうに、それを唐突に視野に入れ、こうして自分を表すアイコンにしてしまうセンスは中々侮れない。流石、俺の糞作品を見つけ、称賛するだけのことはある。やっぱりこいつはかなりの変人であると俺は予想した。
俺はキーを叩き、簡単にお礼のメッセージを返した。
どこの誰かも分からないが、一人でも気持ちを分かってくれる人がいる。そう思うだけで、俺の心は軽くなった。
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