摩矢秋人said episode1 ~失恋~

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摩矢秋人said episode1 ~失恋~

 文化祭が終わった後の、学校の雰囲気が俺は嫌いだ──。  学校行事の後というのは、何故か至るところでカップルが成立する。通常の授業とは違い、文化祭という行事が互いの距離を縮ませるのだろう。しかし……それだけで本当に愛だの恋だのが芽生えたと言えるのだろうか?  俺にはどうしてもそんなのは、ただの馴れ合い、嘘っぱちとしか思えない。  まあ、勿論、人に馴染まず、髪を銀髪に染め、耳には4つのピアスを付けて、他人を威嚇して歩くような不良の俺には無縁の事だからどうでもいいと言えばどうでもいい事なのだが、ある一人の男だけは巻き込まないで欲しかった。  その男というのは、保育園時代からずっと俺が密かに想いを寄せている幼馴染み、桜木夕緋(さくらぎゆうひ)だ。  桜木夕緋(さくらぎゆうひ)という男はおかしな奴で、誰もが羨む高級タワーマンションに住んでいながら、ちっとも自宅には帰らず、いつも平均家庭の俺の家。摩矢(まや)家に転がり込んで来ていた。しかも、どういう訳か俺の家族と毎日のように夕食を食っているし、一週間の内、5日間は朝食も一緒だ。そして、俺の弁当はいつも奴が作っているし、俺の部屋の掃除も奴がやっている。  そんなだから家に帰れば自室の屋根裏部屋に引き込もっているだけの俺なんかより、よっぽど桜木の方が摩矢(まや)家の家族らしかった。  桜木とは違い、陰気で態度の悪い俺は家族からも疎まれ、嫌われていた。それでも、桜木という男は、他の奴等と変わらぬ、如来のような優しさで俺と接してくれた。  しかし、学校では絶対に俺に話しかけるなと言い含めている。何故なら学校で桜木と仲良くしてしまったら、人付き合いの多い桜木を介して面倒臭い人間関係に悩まされそうで嫌だからだ。俺は基本、人が苦手だ。わざわざ髪を銀髪に染め、人を寄せ付けないよう突っ張ってるのもそれが理由だ。  だが、そんな平穏も、今日を境に生活が一変してしまった。
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