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文化祭後という、愛だの恋だので一層浮き足立っている奴等が、最も騒ぎ出す嫌な時間帯にそれは起こった。
行事から全くの治外封建と化していた俺は、一人呑気に非常階段の踊場で昼寝にしけこんでいた。
茜色に染まり始めた空には雲が放射状に広がり、上空を飛ぶ白鷺の声がノスタルジックな秋の風情を醸し出していた。
そんな長閑な雰囲気の人気のない校舎裏に、一組の男女が楽しそうにやって来た。
「木下さんはさー。もっと自信を持った方がいいよ。実行委員になって思ったけど、木下さんの気配りで俺は本当に助かった。有り難う」
俺は非常階段の下から聞きこえてくる幼馴染みの声に耳を済ませた。どうやら桜木の野郎がまた女子に調子のいいこと言っているようだ。イケメンなんだから相手の勘違いを誘わぬよう、人と人との距離には気を付けろと再三忠告しているのに、奴は全然それを改めない。
「ううん、そんなことないよ。私の方こそ桜木君のお陰で今年の文化祭はすごく楽しかった。有り難う」
女子生徒の甘く蕩けるような可愛らしい声を聞いて、俺の心はざわめいた。
この声だけでも女に縁のないおっさんだったら軽く昇天してしまいそうだ。そんなとんでもない武器を携えた女が桜木に近付いている。
俺は危機感を感じて、踊り場から身を乗り出し、下に居る二人の様子を覗きこんだ。
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