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「あたしの片想いの相手って……、実は桜木くんなの」
美しい黒髪をさらさらと風に靡かせて、女は桜木に向かって恥ずかしそうに微笑んだ。夕焼けの陽光を逆光ぎみに浴びた女のこういう顔は狡いと思う。網膜を通して男の脳内を完全に支配するからだ。囚われた男の答えはもう決まったようなもんだ。
(──結局、あいつはまた女と付き合うのか……)
そう思うと、俺の身体は深い海の底に沈んでいった。だが、頭を振って、まだ決まった訳ではないと思い直した。俺は自分を奮い立たせ、急いで非常階段の踊場から跳び降りた。
女は周囲に誰も居ないと思っていたのだろう。突如、現れた俺の姿を見て、びくりと体を震わせた。かなり怯えた顔をしている。そりゃそうだ。学校での俺の評判はすこぶる悪い。人を一人や二人殺しても平然としていそうなサイコパス。それが俺のイメージだ。
「……てめえらうるせーよ。俺の睡眠を邪魔しやがって……只で済むと思うなよ……」
地の底から地獄に引きずり下ろすつもりで俺は奴等を睨み付けた。
案の定、女は俺と目が合うとそそくさと桜木の影に隠れた。その怯えた小動物のような愛らしさが、余計に俺の神経を逆撫でした。女という生き物は、こうして男に甘え、愛されるように出来ている。
「告白タイムか?いいよなあ、色男は──。これで何人目だ?」
俺が桜木の胸を手で小突くと、桜木が俺の名を呼ぶ。
「──摩矢」
俺は真正面から奴の顔を見た。何度見ても
惚れ惚れする綺麗な顔だ。
アメリカ人とのハーフである桜木は、骨格自体が日本人離れしている。雰囲気もあちらの人間らしく陽気で大雑把。人の好い笑顔は見つめられたら誰でもつられて笑顔を返してしまうだろう。
身長は俺より背の高い189cmの大柄で、引き締まった身体。色白の肌にアッシュブラウンの長めの前髪。そこから覗く宝石のような瞳はトパーズのように輝いて、誰もが即座に魅了されてしまう筈だ。そして、すっきりとした鼻梁としっかりとした顎のラインは男らしく、いざとなったら頼り甲斐のある桜木をよく現していた。
「なあ、摩矢。俺が彼女と付き合うとしたら、お前はどう思う?」
「──あ"?」
(何で俺にそんな事を聞く?お前が今まで俺に意見を求めたことなんかあったか?)
「俺さあ……付き合うなら今度こそ、ちゃんと続けたいんだよね」
桜木は形の良い眉を不安げに下げて見せた。
(なるほど……流石の奴も、今までのような来るもの拒まずではまずいと感じたのか?まあ、こいつも少しは成長しているようだ)
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