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「なあ、摩矢。どう思う?」
桜木が前のめりになって答えを促す。こいつが俺にどう答えて欲しいのかがよく分からない。しかし、俺の意見に左右されてくれるというのなら、俺の答えは決まっているようなもんだ。
「お前に女なんてまだまだ無理だ!どうせまた1ヶ月かそこらで別れるさ、止めとけ止めとけ!」
と、言った途端、桜木の隣で悲しげに瞳を潤わす女が目に入った。
震える長い睫毛の間から、今にも涙が溢れ出しそうだ。だが、小さな唇を硬くきゅっと結んで、涙を必死で抑えている女の健気な姿は、俺に同情といういらん感情を植え付けた。お陰でさっきまで妨害しようとしていた気持ちは何処かに吹っ飛び、馬鹿な俺は絶対口にしてはいけない言葉を口にしてしまった。
「つーのは冗談で、悪くないんじゃね? 結構お似合いだと思うぞ──付き合えば」
言った後で、俺は死ぬほど後悔した。
「そっか!お前にそう言って貰えるとなんか勇気が湧くな、有り難う!」
桜木は笑顔で礼を言うと、女にOKの返事をしていた。
(おいおいおいおい!!ちょっと待て!!そんなんであっさり決めんじゃねえよ!馬鹿!!)
そう思っても後の祭りだった。
俺は慌てて二人の間を裂けないかと再三考えたが、女に向かって優しく微笑む桜木の顔を見た途端、全てがどうでもよくなってしまった。
(また……、俺の日常が地獄になると言うだけの話だ)
俺は痛む胸を隠すように、赤い夕陽と新しく結ばれた二人に背を向けた。
(これが自然の摂理ってもんだ……。男は女を……女は男を……ってね。
俺は男だ──。男に産まれた以上は桜木を諦めるしか道はない……)
朱に染った空は、次第に暗い夜の闇に落ちて行く。それはまるで俺の胸中を映しているかのようだった。
(──ああ……糞!俺は愛だの恋だのは本当に嫌いだ!)
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