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10 ドナーカード〜翼side〜
俺は中野翼。18歳。ツバメのいとこで幼少期にツバメの家に預けられた。以来ずっとツバメと共に過ごした。
ツバメが心臓の病気である事は知っていたし、入退院も頻繁に繰り返していたので、いつもツバメの体調を気遣って生活をしていた。
心臓の悪いツバメがいるのは当たり前の生活で、病気のせいで出来ない事、そのせいでがまんを強いられている姿がかわいそうでなんとかよくなってほしいと願っていた。
兄妹のように同じ時を過ごしていくうちに、何故か徐々に違う気持ちが湧き上がってくる事に気付いた。だがツバメはこの気持ちには気付いてはいないし、言うつもりなんて無かったからこの気持ちを隠して過ごしていた。
去年ツバメが倒れた時、心機能が著しく低下しており、移植医療を受けなければ助かることは無いと言い渡され、俺は絶望感でいっぱいになった。
出来る事なら代わってやりたい。だがそんな事は叶うはずがない。
そしてツバメは心臓移植のドナーが現れるその日まで身体を持たせる為に補助心臓を身体に繋ぐ手術を受けた。
ツバメが自宅に帰っても大丈夫なように通信制の大学にも進学したし、介助者の講習も受けた。
ドナーカード。これに脳死後に移植の意思があること、移植してもよい臓器の項目の心臓の部分に印を入れた。もし万が一死ぬ事があったとしてもツバメや他の方を救える…。
でも出来るなら俺の心臓はツバメに……。そう願ってしまう。
頼む! 心臓移植が出来るその日まで持ち堪えてくれ!
毎日毎日ツバメの無事を祈らずにはいられなかった。
ツバメと匠先生と俺の三人で行ったあのキャンプ場で匠先生をじっと見つめるツバメを目撃して、抑えきれずについ自分の気持ちを言ってしまった。
「俺もツバメに言っておく事がある。俺はツバメの事が好きだ。たとえ匠先生の事が好きだとしても」
と。
ツバメは自身の気持ちを絶対に知られたくないと思っていたから、その気持ちを尊重して俺から先生にその事を言ったりはしなかった。でも……。気持ちは複雑だ。
□ □ □
そして季節が秋に変わった辺りから俺の体調に異変が現れた。頭痛が頻発するようになったのだ。
久しぶりにツバメの見舞いに行こうと病院前の交差点を歩いていたら、また頭痛が起こった。こめかみに手を当てて立ち止まると、ちょうどそこに向かって軽トラックが突っ込んで来た。まずいと思ったが、痛みに気を取られた俺は避ける事が出来ずに衝突し頭を強打した。
激しい頭痛と体中を揺さぶるような衝撃の中、
「ツバメ……」
ツバメの事だけがただただ気掛かりで、俺はそのまま意識を手放していった。
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