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2 山本匠先生
普段よりも少しだけ早足で、ナースステーションまでやって来た。はあ、はあと、少し息が上がった。
キャンプの本を看護師さんに返してもらいに来たのだが、つい匠先生の姿がないか、キョロキョロと見回してしまった。そして左側の席に座っている先生を発見。
「あっ!匠先生だ」
「何かな? ツバメちゃん。息が少し上がっているけど、まさか走ったりしてないよね?」
読んでいたカルテから目線を私の方へ移しながら話す。
やっぱりいつ見てもかっこいいなーと心の中で呟いた。山本匠先生は現在27歳でアイドルにもなれそうな端麗な顔立ちをしている為、看護師さんだけでなく、子ども達やそのママさん達にも大人気なのだ。
「走ったりはしてないですよ。さくらちゃんと翼と今度キャンプに行く事になって。看護師さんに本を貸してあげてたので返してもらいに来ました」
「キャンプに行きたいのか」
「それで、もし良かったら、夏に1泊の予定なんですけど、先生も一緒に行きませんか? 看護師さん達には内緒で……」
最後の方は小声になる。
断られたらどうしようとドキドキしながら聞いてみる。
「俺も行く。何かあったら心配だからな。だからそれまで風邪とかひかずにいるんだぞ」
「やったー!翼が車の免許取ったって言ってましたよ。送迎は翼の運転になりそうですね」
「あいつ、免許取ったんだ。でも運転大丈夫なのか……」
大丈夫だよね? 多分……。ちょっと不安かも。
そこへ看護師の厚木さんが戻って来た。
「厚木さん、前お貸ししていたキャンプの本返してもらいに来ました」
「ツバメちゃん、ありがとうね。この本参考になったよ」
私物入れから本を取り出すと、私に返してくれた。
「この本を見て天川村キャンプ場に行ってきたけど、良い所だった。出来たばかりで新しいし、コテージもあったよ。蛍の生息もしてるらしいわ」
キャンプの場所どこにしようかな?そうだ、私たちの身体の事を考えてコテージ付きの所予約するんだった。
本をパラパラとめくりながら考える。
「厚木さんオススメの天川村キャンプ場候補にいれておきますね」
悩むなあ。どうせなら設備も綺麗なところのほうがいいよね。考えを巡らせる。
「場所が決まったらまた教えてくれよ」
と、耳元でこっそり伝えてくれた。その後、匠先生はカカオ95パーセント入りのチョコレートを口に入れると一瞬苦そうな顔をした。そして砂糖たっぷりのコーヒーで喉に流し込む。
「匠先生、もしかして苦いの苦手なんじゃ?」
いつもしっかりしていて頼りになるイメージがあるのに意外と甘党でかわいいと思ってしまった。そういえば売店で甘そうなスイーツを買っている所を見たな事があるなと思い出した。
「先生、無理して食べなくていいのに。ふふふ」
かわいい一面を発見して笑ってしまった。
「これは、たまたまだからな! こんなに苦いとは思っていなかったんだ」
焦った様子でバツが悪そう。その時匠先生の病棟用PHSが鳴り、慌ただしく出て行った。
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