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3 籠の中のひな鳥〜匠side〜
初めてツバメに会ったのは去年の事だった。小児病棟で医師として働く俺はその日、中庭である少女を探していた。回診時間になっても病室に戻らない少女。院内アナウンスをかけても見つからない。そこで手の空いている者は探しにいく事となった。
分かっている情報は中野ツバメ16歳。拡張型心筋症で入退院を繰り返す入院患者。それと背中の真ん中までの黒髪で前髪を桜を象ったピンで止めていることぐらい。こんな情報だけでちゃんと探し出せるのかは不安だが、これも仕事の一つだからしょうがない。
「ツバメちゃん」
呼びかけながら辺りを見渡す。
既に病棟用内、受付ロビー、売店なども探してみたがそれらしい姿は無かった。
売店にもいないとなると、中庭か?次はそこを探してみることにした。すると、中庭のいくつかあるベンチの後ろに、背を後ろに向け座り込んでいる少女がいた。隠れているつもりなんだろうか。
「こんな所に座ってどうしたんだ? まだ帰りたくない気分なのか?」
桜のピンを付けた少女が俯いたまま、こくんと首を縦に振った。
「俺、ここの小児科医として勤務することになったんだ。ここの中庭落ち着いていい感じだな。今の季節はちょうど桜が見える。綺麗だ」
桜の木が沢山あり、もうすぐ満開になりそうだ。時折り桜の花びらがひらひらと風に乗って落ちてくる。いつまでも見ていたくなる景色だ。
「ここの先生だったんだ…。先生も桜好きですか?」
「そうだな」
ツバメの桜の飾りを見ながら答えた。
その直後少女は急に振り向いて立ちあがろうとし、フラッと傾きかけた。ベンチに頭をぶつける寸前の所で小さな身体を腕に抱き止める。
すると、顔をぱっと赤くした少女と目が合い、不覚にもかわいいと思ってしまった。
「君、小児病棟に入院中の中野ツバメちゃんだろ?みんな探してたぞ。そろそろ戻ろうか」
「はい。ちょっと考え事をしていただけだし帰ります」
ツバメははにかんだ表情で頷き、二人で小児病棟へとゆっくり歩き出した。
その時はまだツバメに恋愛感情を持つなんて思わなかった。
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