5 BBQと線香花火

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5 BBQと線香花火

 リビングの先からテラスに出るとそこにはテーブル、椅子、バーベキューグリルなどが既に置いてあった。  お肉や野菜などをすぐに焼ける状態にカットし、お皿などの準備もしておくことにした。翼は足りない調味料を車まで取りに行ってくれる。 「私、野菜切るね。まずはとうもろこしを」  包丁を持ちカットしようとするが思ったよりも硬い。 力を入れて刃を入れるがわずかに横にずれてしまい、人差し指に刃先が当たってしまった。 傷口から血が流れ落ちる。 「痛っーー!」 「大丈夫か、ツバメちゃん」 匠先生が駆け寄り指先をハンカチでぎゅっと押さえて止血させる。    しばらく指を押さえて血が止まった事を確認すると、バッグから救急セットを取り出し、消毒した。そして絆創膏を貼ると、 「これで大丈夫だからな。気にするな。傷も深くない」 頭をポンポンと撫でるから顔が赤くなる。  そのタイミングで調味料を抱えた翼が戻ってきた。 「あ! 何で二人距離が近いんだよ。しかもツバメ顔が赤いぞ」 ツバメの顔をじーっと覗き込む。 「えっとーー、指を包丁で切っちゃったの。それで匠先生に手当てしてもらった」 「そっか。やっぱり食材は俺と先生で準備する。また怪我でもしたら大変だ。ツバメは食べる専門な」 「えーー。せっかくキャンプ場に来れてバーベキュー出来るから私もやりたかった……。 でも逆に迷惑かけちゃうよね。よろしくお願いします」 ぺこりと頭を下げた。 「よーし、じゃあ切っていくか」 二人は手際良く食材の準備を終えると次々と焼き始めた。 「翼、私が鶏肉しか食べれないからお肉は鶏肉にしてくれたんだ! それに私の私の大好きなとうもろこしも準備してくれてありがとう」 「せっかく来たんだし、好きな物を食べた方がいいだろ? ツバメの好みは知ってるから」 ニヤッと笑みを浮かべながら、焼き鳥を焼いている。ジュージューとお肉の焼ける音が響き、辺りは美味しそうな香りに包まれた。 「野菜もどんどん焼いて行こうか」 キャベツや椎茸、とうもろこしも焼き始める。 火の通った肉や野菜から順に食べてみることにした。 「乾杯!」 『かんぱーい!!』 「外で食べるのってなんだか新鮮だね。それだけでなんだか特別な気がするし、美味しいな」 普段よりも食が進む。 「食後は花火をするよ。各自浴衣に着替えたらリビンングに集合だ」 『了解!』  □ □ □  今回の花火の為に準備したのはピンク色の生地にアゲハ蝶がたくさん羽ばたいているデザイン。そして帯は紫のへこ帯。補助心臓の周りを圧迫しないように気を付け、ちょうちょ結びにしてふんわりと仕上げる。  浴衣に着替えてリビングに戻ると既に二人は浴衣姿でソファーに座っていた。  翼は濃いブルーの浴衣で現代的な模様。そして匠先生は黒い龍柄の浴衣だ。翼にぴったり似合う青と素敵なデザインだし、匠先生は大人っぽさが現れていて二人ともかっこいいなと思った。 「二人とも似合ってるね。私はどうかな? 変じゃない?」 変だったらどうしよう……。 「とってもツバメちゃんにぴったりの浴衣でかわいいよ」 「ツバメに似合ってる」 二人とも褒めてくれたからなんだか嬉しくなって口角が緩んだ。 「ありがとう」  リビングの外の景色に目をやると辺りはもう薄暗くなり始めていた。  コテージの棟から少し外れた所にある川辺まで3人並んで向かった。 「この花火はすごいんだ。国産の線香花火で通販でわざわざ取り寄せた。ツバメちゃんとやりたいなと思って」 「わーー!ありがとう匠先生! 楽しみだな」 「木の箱に入ってるとか何かすごく高そうな気がするんだが……」  と、値段を気にする翼。 「確かに値段はちょっと高めだけど手間がかかってるし、その分綺麗なんだ」 そう言って木製の箱に入った線香花火を丁寧に取り出す。  中から出した花火を1本ずつ手渡され、ろうそくに少し角度を付けて火を付けた。  すると、ジージーと僅かな音を立てながら炎の蕾を灯し、次にパチパチと火花を散らし松の葉の様に光輝く。そして火花の数を徐々に減らしながら赤から黄色に色を変化させるとゆっくりと儚く消えていった。 「あっ……」 「この儚く散っていく様がが何だか綺麗で悲しいけど好きだ」 匠先生をじっと見つめるツバメを翼は見ていた。  それぞれ3本ずつ線香花火を楽しんだ。   「ツバメ、ちょっと相談があるからちょと来てくれ。先生、悪いけど後片付け頼みます。話が終わったら直接コテージに戻るから」 そう言いながら私の手を握り、川辺を歩き出した。  花火をしていた川辺を少し歩くとそこにはうす緑の光を放つ蛍が辺りを薄っすらと照らしていた。 「わーー! これ蛍だね。初めて見たけど綺麗だな」 「そうだな。ツバメと一緒に見る事が出来て良かった」 「そういえば、相談って何?」 しばらくの沈黙の後、 「お前、匠先生の事どう思ってる?」 とんでもないことを聞いてきた。え?何でそんな事聞くんだろ?私、そんなに先生の事見てたかな? 「もしかして、翼、私が匠先生の事好きだと思ってるの?」 「そんな事ないよ。ーー」 「そんな事あるだろ?いつも先生の事目で追ってるの気付いてた。好きなんだろ?」 「え……。私、そんなに見てた?それに先生とは歳も離れてるし、医者と患者の関係だよ」 「そんなのは好きになってしまえば関係ないだろ」 「ーー。うん……好きになってしまった。だけど、お願い。先生にはこの事秘密にしておいて。今の関係が崩れるのは絶対嫌なの」 必死に頼み込んだ。この気持ちが今バレるわけにはいかない。絶対に。避けられるぐらいだったら、ずっと片想いのままでいい。 「分かった。でも俺もツバメに言っておく事がある。俺はツバメの事が好きだ。たとえツバメが先生の事を好きだとしても」 「!!」 驚きのあまり声も出なかった。翼とはいとこ同士で歳も近く、おみまいにもよく来て仲良くはしていたけど、異性として見たことは無かったので急にそんな事を言われ戸惑った。それに幼少期に翼はツバメの家に預けられて同居していた。  私は家族のように思っていたから……。 何も言えず俯いたまましばらく時が過ぎていった。 「急にこんな事言って戸惑わせてゴメン。気持ちだけは伝えておきたかったんだ。そろそろ戻ろうか」 「うん」 コテージまでの道を行きとは違い、黙ったまま二人は戻って行った。  コテージに戻ると、 「お帰り。」  匠先生が笑顔で迎えたくれた。なんだか気まずいけど、先生に変に思われたくないから気持ちを切り替えて笑顔を見せる。 「ただいま。匠先生、片付けありがとう」 「ありがとうございました」 「大したことじゃないよ。そうだ、これから順番にシャワーを浴びて寝る準備しようか」 『はい!』 そして初めてのキャンプ場での1日を終える。このまま楽しい気持ちで帰れると思って眠りについたのだが……。  
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