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6 帰院
翌日コテージのベッドで目を覚ましたツバメだったが、なんだか身体が熱く重だるい感じがした。もしかしたら風邪をひいてしまったのかもしれない。でもあの二人に気付かれたらすぐに病院に連れ戻されてしまうよね?それは嫌だな。
そんなことを考えながらぼんやりしていると、
「おはようツバメよく寝れたか?」
翼が声をかけてきた。匠先生の姿もある。
「うん。よく寝れたよ。調子も良いよ」
体調は良いことにしておこうと心にきめたが、
「ツバメちゃん、何か顔が赤くないか?念のため熱を測っておこう」
と、あっさり匠先生に見つかり体温計を手渡される。
仕方なく体温計を脇に挟む。すぐピピっという電子音が鳴り響いた。
「はい、体温計みせて」
有無もなく体温計を回収されてしまった。
「……。ツバメちゃん、38度。熱あるの分かってたよね?」
「ごめんなさい。熱あるのがバレたらすぐに病院に帰されると思って」
「ここで過ごす事よりもツバメちゃんの身体の方が大切だろう?病気の事もあるし心配だから病院へ戻ろう」
「はい」
「しょうがないよな。また今度みんなで来ようぜ。その時はさくらちゃんも誘って」
「うん。今度はさくらちゃんと一緒に来たい」
こうして急遽病院へと戻る事になった。
□ □ □
病院へと戻ると、本日担当の看護師さんから、
「張り切って翼君とキャンプ場に行ったから疲れちゃったんじゃない?熱もあると聞いてるよ。今日は部屋でゆっくり身体を休めてね」
と優しく声をかけられた。
さくらちゃんにキャンプ場での出来事について話したかったけど今日は無理かなと思った。さっきよりも身体が重だるく筋肉痛も出てきたからだ。熱も上がってきたような気もする。
明日以降さくらちゃんに話を聞いてもらうんだ!と考えながらベッドに寝転がるとそのまま眠り込んだ。
あれから3日が経ちようやく熱が下がると、さくらちゃんとの交流も許可された。
「ツバメちゃん、それでキャンプ場ではどうだったの?ちゃんと楽しめた? ねえ?」
普段は落ち着いているさくらちゃんだったが、早口で返事を急かしてくる。
「ちょっと、落ち着いてよ。ゆっくり話すからさ」
一呼吸置いて話し始めた。
「翼が運転する車でキャンプ場に向かった。途中ガードレールに衝突しそうになったり、包丁で指を切ったり、アクシデントはいっぱいあったんだ。でも、初めてバーベキューをしたり、花火も楽しんだの。そして蛍も見たんだよ」
キャンプ場での出来事を思い出す……。
「うん、大変だったね。でも楽しめたみたいで良かった」
でもあの時私は翼にーー。告白されたんだ……。
「ツバメちゃん、どうしたの?何かあった?なんだか難しそうな顔をしてるよ」
そう指摘され、あの事を伝えようかどうしようと悩む。
「うーーん。えっとね、実は私が匠先生の事が好きな事を翼に気づかれた。そして翼に告白された。ごめんね」
その瞬間さくさちゃんは僅かに表情を曇らせた。
「ツバメちゃんは翼君の事は好きじゃないの? 私……」
何か言いかけるさくらちゃんに気が付かず、
「翼の事は大切ないとことであるとしか考えられない……。それと、先生への気持ちは絶対秘密だからね。こんな身体だし、言うつもりはないから。私の片思いで充分だよ」
何か考え込んだ様子だったが、ゆっくりと口を開くと、
「分かった。言わないから安心してね」
と言ってくれた。
さくらちゃんも私と同じ病気だから恋愛に臆病な気持ちを分かってくれたのかもしれない。私は補助心臓で心臓移植を待機する身だ。移植を待つ間に血栓が出来てしまい、亡くなったり、後遺症が残ってしまう可能性があるのだ。未来なんて確約出来ない。
せめて今を少しでも楽しみたい。そう思った。
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