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8 忍び寄る病魔
ツバメの病状は劇的に回復することはなく体調不良が続いていた。いやそれどころか徐々に悪化の一歩を辿っていた。
そういえば最近中庭にも行けてないな……。病室の窓の外に目をやると桜の木は葉色を赤や黄色に変化させており、見事な紅葉がそこにあった。
私も外に自由に行きたい!ツバメという鳥の名前と同じなのに全然行きたい所に行けずにじっとしているだけ。
私も……。そう考えると気持ちも塞ぎ込んでくる。
窓辺に近づき、ロックを外しそれを全開にした。その瞬間冷たい肌寒い風が室内を駆け抜けた。カーテンが風に煽られバサバサと音を立てる。
両手を広げて目を閉じたままでやや前のめりの体勢となる。このまま自由な世界に飛び立ちたい!!
私にもツバサがあったらいいのに。そしたら自分の好きな所に何処までも行ける……。この閉じこもった世界には居たく無い。
更に一歩前に飛び出そうとした所で、
「危ない!」
と、大声で呼び止める声が聞こえた。
身体ごとぎゅっと抱き止められる。
「ツバメちゃん……。危ないじゃないか。」
「私も身体の事を忘れて自由に羽ばたいてみたいと思ったんです。死の恐怖からも逃れられるように」
窓の外の一点をじっと見つめたまま震える声で話した。
「ツバメちゃん、もうこんな事はしないでくれ。君が居なくなってしまったら俺も寂しいよ。約束して欲しい」
身体を抱き上げられベッドに戻された。
窓が夕焼けのオレンジ色に染まる頃翼が病室を訪ねてきた。
「聞いたよ今日の事。窓から飛び出そうとしてたんだって? もうあんな事するなよ。もの凄く心配した。毎日見舞いにも来るから!一緒に居てやるよ。ツバメの不安な気持ち少しでも減らせるように」
「うん。ありがとう、翼」
そして、私の頭を優しく撫でておでこスレスレにキスをした。
「もう! 何するの!びっくりさせないでよ」
翼の思いがけない行動にただただ驚く。ファーストキスもまだなんだから振りだけでも辞めてほしい。
その時急に翼は眉間に皺を寄せて表情を険しくさせる。
「? 翼どうしたの?」
「いや、何でもない。ちょっと頭痛がしただけだ。最近多いんだ。寝不足が続いたからだろ」
頭に手をやった後、またいつもの優しい表情に戻すが、それでもいつもより表情が硬い。
本当に大丈夫かな?私が心配かけすぎたからなのかもしれない。もう今日のような行動は起こしてはいけないと自分に言い聞かせた。
いつも私心配かけて、ごめんね。直接翼に伝えることは出来ず、心の中でそっとつぶやいていた。
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