8人が本棚に入れています
本棚に追加
11.30年後の僕たち
僕は…公務員試験に2度落ちていた。あれからチヤホヤされて遊びすぎたんだ。その時は2年間、真面目な引きこもりだった。
しかし…諦めきれず…ラストチャレンジだった。そして、なんとか合格できた。なりたかった職につけた喜びはない。しかし…最近では、賽銭泥棒の張り込みばかりしているけどね。
あの事件が、何らかの刺激となり、将来の職業を決めるきっかけになったのは間違いなかった。
あの頃から…30年。
「おー宇宙。久しぶり。呑もうぜ」
「あら、いらっしゃい宇宙さん。ゆっくりしてらして」
お母さんはいつも優しく迎えてくれる。いつまでも若々しく綺麗だ。
淳の庭の南天は、毎年たわわに実っている。さらに柿の木も増えている。
庭を見ると、あの頃の光景を思いだし笑ってしまう。
「それよりお前、嫁さん、まだか?」
「こればっかりはなぁ…」
「久しぶりに家で呑もうなんて…期待しちゃったじゃないか…」
淳は呑気に笑っている。
「俺らも誰かの役に立ってるのかなぁ…」
「もちろんさ。ボールパイソンのおかげだね…」
「いや、君のお母さんのおかげだよ。鳥が好きだったんだからさ。」
「それを言うならお父さんだよ。あの場所であの南天を掘ってさ…根元にビニールを巻いて置いたからだよ。ははは」
白髪が目立ち始めた僕たちのもっぱらの話題だった。
「そうだ宇宙。今日、違和感を感じなかったのか?」
「いや…何も…。」
「お前もかなり鈍いな?」
淳の横にお母さんが座った。
「お母さん…?」
マスクを取り、ふくよかな30代半ばの女性が微笑んだ。
爬虫類ショップの店長で、あの記事に刺激を受け爬虫類に興味を持ち…それが淳と出会う『きっかけ』になったそうだ。
淳は、獣医になるために2浪したが、3度目の正直で受かり、その後7年間かけて大学を出た。今は動物園で獣医として泥まみれでやっているようだ。
「南天が運んで来たものって何だ?」
「点数だ!100点かな?」
「南天だけに?」
…ダジャレの似合う中年の笑いがそこにあった。
終
最初のコメントを投稿しよう!