11.30年後の僕たち

1/1
前へ
/11ページ
次へ

11.30年後の僕たち

僕は…公務員試験に2度落ちていた。あれからチヤホヤされて遊びすぎたんだ。その時は2年間、真面目な引きこもりだった。 しかし…諦めきれず…ラストチャレンジだった。そして、なんとか合格できた。なりたかった職につけた喜びはない。しかし…最近では、賽銭泥棒の張り込みばかりしているけどね。 あの事件が、何らかの刺激となり、将来の職業を決めるきっかけになったのは間違いなかった。 あの頃から…30年。 「おー宇宙(そら)。久しぶり。呑もうぜ」 「あら、いらっしゃい宇宙(そら)さん。ゆっくりしてらして」 お母さんはいつも優しく迎えてくれる。いつまでも若々しく綺麗だ。 (あつし)の庭の南天は、毎年たわわに実っている。さらに柿の木も増えている。 庭を見ると、あの頃の光景を思いだし笑ってしまう。 「それよりお前、嫁さん、まだか?」 「こればっかりはなぁ…」 「久しぶりに家で呑もうなんて…期待しちゃったじゃないか…」 (あつし)は呑気に笑っている。 「俺らも誰かの役に立ってるのかなぁ…」 「もちろんさ。ボールパイソンのおかげだね…」 「いや、君のお母さんのおかげだよ。鳥が好きだったんだからさ。」 「それを言うならお父さんだよ。あの場所であの南天を掘ってさ…根元にビニールを巻いて置いたからだよ。ははは」 白髪が目立ち始めた僕たちのもっぱらの話題だった。 「そうだ宇宙(そら)。今日、違和感を感じなかったのか?」 「いや…何も…。」 「お前もかなり鈍いな?」 (あつし)の横にお母さんが座った。 「お母さん…?」 マスクを取り、ふくよかな30代半ばの女性が微笑んだ。 爬虫類ショップの店長で、あの記事に刺激を受け爬虫類に興味を持ち…それが(あつし)と出会う『きっかけ』になったそうだ。 (あつし)は、獣医になるために2浪したが、3度目の正直で受かり、その後7年間かけて大学を出た。今は動物園で獣医として泥まみれでやっているようだ。 「南天が運んで来たものって何だ?」 「点数だ!100点かな?」 「南天だけに?」 …ダジャレの似合う中年の笑いがそこにあった。 終
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加