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6.黒い影
ヘッドライトをつけ、車はゆっくりと墓地を通り抜けた。時に『ヒュー』と風が火の玉を連れて来てるような寒気を感じた。
雑木林の角を曲がったところで、車は竹を踏んで左右に大きく揺れた。
「キャ!」
「…お母さん…大丈夫?」
「今…なんか通らなかった?…」
「…なんかって? …まさか幽霊とか…」
お母さんはそれっきり喋らなくなった。
そして車はピタリと止まった。
「なんで止めるの?お母さん!」
次第に雨は強くなり、横殴りの雨は、水分を含んだ重い竹をユッサユッサと上下に揺らして、時折『バラバラバラッ』と、激しい雨粒が車のルーフに落ちた。
さらに『ガンガン』と車を叩きつける大きな音もして、立て続けの怖さに怯えていた。
ガシャガシャガシャ…何か擦る音がした。
すると、運転席の窓ガラスを黒い物体がドンドンと叩いた。
「うわっ」
僕は後部座席で、頭をかかえてしゃがみこんだ。
窓を開ける音がして黒い物体と何か話してる…。
「ちょっと待ってください。」
と言うとお母さんが、傘を差し車の外へ出た。
“ダメだよ出ちゃ…お母さん”
雨の音が邪魔してよく聞こえない。恐る恐るその姿を見ようとしてもお母さんの後ろ姿だけだ。
数分沈黙が続いたかと思った時、後ろのトランクに『ドサッ』と何かを積みこんだ。その反動で車が大きく揺れた。
“まさか…お母さんが殺されてトランクに入れられたかも…だとすると、男が乗りこんで運転するはずだ。さては僕を人質にして身代金請求されるとか…。”
…僕はありったけの想像を巡らせた。
でもそれはすぐに明らかになった。
間違いなくお母さんが運転席に着いたからだ。
軽く会釈をすると、ハンカチで軽くハンドルを拭き、車は動き出した。
僕は早くその場を離れたかった。
黒ずくめの小さなカッパ男は、鍬を担いで雨の中に消えていった。
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