8.淳の母親

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8.淳の母親

朝からお父さんの姿はなかった。僕も朝食後すぐ行かなきゃ。そう思っていた。 「…お母さん…ずっと気にしてたことがあって。(あつし)んとこのお母さんてなんで行方不明なの?」 僕はなぜかその日、聞いていた。 「あら、珍しいわね。…(あつし)君のお母さんはね…病気を患って、子供や家族に面倒をかけるからって、黙って身を隠したのよ。 その後…離婚届けが届いたらしいけどね。『私は母親失格だから』って。でも、(あつし)君のお父さんは何度届いても判子を押さなかったらしいわよ。いつまでも待ってるからってさ…。」 「ふぅん」 僕はちょっぴり大人になったような気がした。そして、(あつし)のお父さんのことを初めて『カッコイイ』って思ったのを覚えている。 「(あつし)君のお母さんは、前から鳥が来る庭にしたいって言ってたのよね。南天の木も植えたいとか言ってたけどね。でも、それを植えようとしてたのに…それっきりに。南天は縁起物だし…鳥も来るし…福を呼ぶそうよ。そのうち、水呑場とかも作るみたいな話はしてたわよ。」 お母さんの目尻に小さなシワを見つけた。 僕は確実に大人になっていた。お母さんのシワが僕をそう思わせた。 「へぇ~すげぇ…」 「たまにメールもくるのよ。今日か明日には(あつし)君のお母さん帰って来るみたいよ。病気も治ったみたいだし」 「えーっ!(あつし)知ってんの?」 「 どうかしら お父さんビックリさせたいんじゃないのかな?」 僕は早く(あつし)に会いに行きたくなっていた。 「そうだ!お母さん近所の集まりだから忙しいのよ。(あつし)君家にタケノコご飯と煮物持ってってあげてね。お重に詰めたからね!」
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