9.…いる…

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9.…いる…

僕は風を切って走っていた。走るのはあまり得意じゃないけど、その日はオリンピックの100㍍決勝に出てもおかしくない速さだったと思う。 家の近くまで来ると、僕の感度が微妙な違和感を察していた。 “何か起きる”という予感だ。 “ほら…パトカーだ。多分…ボールパイソンとかいうヘビがいて警察を呼んだはずだ!” 玄関には靴が散乱していた。 「あのさ、宇宙(そら)。今ね警察とか君のお父さんも来てるんだ。…こっち来て」 (あつし)は僕に気づいてそう言った。 「ヘビ見つかったの?」 僕はドキドキしていた。 「…そうだよ。でも…テレビのヘビじゃなかったよ。へへへ」 安堵したような顔をして笑ってる。 「マジで…じゃ…何なの?」 「あのさ…アオダイショウって言う日本のヘビだって。うちのお父さんと君んちのお父さんが、押し入れに穴が開いてるのを見つけて…そこにシッポがぶら下がってたんだって」 「マジか…うぅ」 アオダイショウを触った手がムズムズしてきた。 「一応、色々聞かれてるとこだから、もうすぐ帰るはずだよ。」 「そっか…。ところで、あそこの穴は何?」 僕は(あつし)のお母さんのことを話そうと思ったけど、もう少しだけ焦らそうと思った。僕は美味しいものは後に残すタイプなんだろう。 「あのさ、南天を植えるんだって。三日前、親戚のおじさんちの畑で掘って、昨日持って来たんだ。ほら、そこの穴にあるよ。今日埋めるみたいだよ。見る?」 僕は(あつし)の後から付いていった。 「ここは池にするんだよ。」 「凄いね。鯉とか…いいなぁ…」 「俺はプール代わりにしたいくらいだよ。」 ふと、僕の感度アンテナが光った。 “…いる…” 辺りをキョロキョロ見回した。 「宇宙(そら)…なんか感じた?」 「うわーっ!(あつし)!あそこ!」 「でけぇ!大変だー!ヘビだー!」 と叫ぶと池を作る為に掘った穴に落ちてしまった。 僕たちはありきたりの声を出し助けを呼んだ。その声に集まった父親や警察官…やがて…ヘビの専門家の人が来て無事に捕まえることができた。 南天の木の根元に巻いているビニールから、ひょっこりヘビの頭が出ていたのを見つけたのだった。 そうして大変な一日が過ぎた。
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