レモネードスカッシュ

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レモネードスカッシュ

 入る店……間違えたな、と俺は心の中で呟いた。なるべく見ないように避けてきたのに。しかも、よりによってアイツの高校かよと、壁に設置してあるテレビを恨めしそうに見つめた。  ブラスバンドの応援歌と声援が嫌でも耳に届いて、ぐっと唇を噛んだ。テレビに映っているのはマウンドに悠然と立つ背番号1のアイツ。 ——さあ、ツーストライク、ツーボール。六回表、2年生ピッチャー、藍原。ここまで二安打無失点と昨年の覇者、東城学園を相手に好投を続けています。  バッターと対峙した瑞樹はゆっくり振りかぶると目一杯腕を振ってボールを投げた。ズドン、と勢いよくアウトコースに突き刺さり、審判の手が上がった。  その瞬間、ドッと歓声が沸き上がる。悔しそうにするバッターを尻目に瑞樹は颯爽と駆け足でマウンドを後にした。  その光景に眉を(ひそ)めて、俺は目の前に置かれてあるグラスに口をつけた。やっぱり炭酸の味はしない。そりゃそうだ。レモンスカッシュだと思い込んで頼んでしまったのはレモネードだったのだから。 「お待たせー」  トイレから戻ってきたリカに気づき、俺は気持ちを切り替えて笑顔を作る。 「長かったね」 「それ、女子に言っちゃいけないやつー」 「あはは、ごめんごめん。冗談だよ」  ちょっとした軽口を叩いてみる。  なるべく余裕があるように。イケてる男を意識して。
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