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今日はリカとの念願の初デート。何度かアタックしてようやくオッケーをもらえたこのチャンス、絶対に下手は打てない。だけど今日ここまで良い感じだし、手応えはあった。上手くいけば、俺に人生初の彼女ができるかもしれない。
「それにしても来週のプール楽しみだなー。あー、早く行きてー」
「だねー」
笑顔で相槌を打つリカを見て胸が高鳴り、思わず伸びた髪をいじった。可愛い女子と喫茶店でお茶をする——。ずっと憧れてたデートの一つだ。もしこのままリカと付き合うことができれば、みんなで行くプールとか夏祭りとかだって、もっと楽しい夏休みを過ごせるはずだ。
……夏休みか。アイツら、今頃……
ふと脳裏に過ったアイツらの練習している姿を必死に掻き消した。もうそのことは考えないって、決めただろ。
俺はもう決めたんだ。これまで犠牲にしてきた青春を取り戻すんだ、って。
だけど嫌でも耳に入ってくる歓声と実況が俺の邪魔をしてくる。それに俺がこうやって女の子とデートをしている今この瞬間にも、炎天下の中、汗だくになりながら必死に戦っているアイツの顔がさっきから何度もチラついて仕方がない。
「どうかしたー?」
「いや、リカはどんな水着を着てくるのかなって想像してた」
「うわー。ひくんだけどー。……でも、聞きたい?」
「教えて、教えて」
もう野球を辞めた俺には関係ないこと——。そう自分に言い聞かせて、リカに笑顔を向けながらレモネードをひと口飲んだ。
やっぱり炭酸の味はしなかった。
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